家族写真 (河出文庫) の感想

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タイトル家族写真 (河出文庫)
発売日販売日未定
製作者辻原 登
販売元河出書房新社
JANコード9784309410708
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » た行の著者

購入者の感想

 本書には巻末に著者による「文庫版 あとがき」及び湯川豊氏による「解説」が付されている。また、帯には「ツジハラに侵蝕される、世界、世界、世界、――」ともある。このうえ私が本書についてどうこう言えるものかどうか? 気の利いたことは言えないけれども、蛇足、あるいはとんちんかんな評言だけれども、レヴューしてみようと思う。

をとこもすなる日記といふものを、をむなもしてみむとてするなり、と紀貫之は女の筆に仮託して仮名文日記、『土佐日記』を綴ったが、生憎、僕には日記をつける習慣はない。

 という書き出しで始まるのは、五篇目に収録された「緑色の経験」だ。太宰治は、「女人訓戒」の中で、

或る映画女優は、色を白くする為に、烏賊のさしみを、せっせとたべているそうである。あくまで之を摂取すれば、烏賊の細胞が彼女の肉体の細胞と同化し、柔軟、透明の白色の肌を確保するに到るであろうという、愚かな迷信である。けれども、不愉快なことには、彼女は、その試みに成功したという風聞がある。もう、ここに到っては、なにがなんだかわからない。(略)/なんにでもなれるのである。(「女人訓戒」/引用は、青空文庫による)

 と書いている。要するに、女性はその気になれば、「なんにでもなれる」と太宰は言っているのだが、辻原氏は、「一心に思いを凝らせば、その思いが自然を動かす」と書いている。そうして、日記の筆記者は「思い」に「侵蝕」され、「女に変身」する。めちゃくちゃと言えば、めちゃくちゃな話である。しかし、という「思い」も抱く。
 しかし、そうなると、「紀貫之は女の筆に仮託して」云々という史実、を疑ってみたくなる。疑る、という言葉は正確ではない。推論したくなる、というべきか。紀貫之は技巧として女性の肉声を借りようとしたのではなく、男としての自分に違和を抱き、どうしても女性の肉声を必要としたのではないか? そのあまり、ついに彼は、彼女になったのではないか? という推論である。そう推論したから、どうなるわけでもないのだけれど、しかし、紀貫之をインテリでダンディな男性としてイメージするよりも、不遜な観は否めないにしても、おネエ系のおっさんとしてイメージした方が、なんだか、楽しそうじゃないか。

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