どくろ杯 (中公文庫 A 81) の感想

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参照データ

タイトルどくろ杯 (中公文庫 A 81)
発売日販売日未定
製作者金子 光晴
販売元中央公論新社
JANコード9784122003286
カテゴリ文学・評論 » 詩歌 » 詩集 » 近代詩

購入者の感想

詩人金子光晴が、大正から昭和における自己の結婚、貧困生活、夫人の浮気、その後の上海でのどん底生活までを描いた自伝だ。

本書の特徴であり魅力の一つは著者が自分自身の欲望、無責任・いい加減さ、貧困生活などを赤裸々に語っているところだ。例えば夫人森三千代との結婚に至るまでの経緯も、愛情というよりは欲望に近い中途半端な形で始まり、子供が出来て結婚に至り、その後夫人が年下の男と浮気をしたため、それを引き離すために東京を離れて上海に流れ着く、といった具合に計画性なく惰性に任せて生きている自己を飾ることなく描いている。

もう一つ強い印象を残すのはこの夫婦が辿りついた当時の上海だ。当時の上海は「世界の屑、ながれものの落ちてあつまるところ」であったとのことで、社会の底辺で暮らす中国人肉体労働者の生態や、著者と同様に日本から流れてきて極貧の中でその日暮らしを続ける芸術家達の姿は痛ましいまでに強烈だ。

本書はこの夫婦が2年に及ぶ上海生活を終えてパリに向けて旅立つところで終わり、その後の更に5年に及ぶ放浪生活は続編の「ねむれ巴里」「西ひがし」に描かれているとのことだ。本書を読了した現在の心境は、「毒を食らわば皿まで」ではないが続編も読まずにおれないという気持ちだ。

 あまりにも個性的な日本詩人、金子光晴の彷徨を収めた自伝の第一弾。自身を美化し糊塗する文章は一行もなく、抑揚のない筆致は時代のリアリズムを浮き彫りにしている。にっちもさっちもいかず、時代の憂鬱さ、閉塞ぶりに急かれるように彼は、たいしたあてもなくパリに向かい旅に出る。ここに描かれている日本は、まるでたった今私たちがいる日本のように見える。救われない魂を持つ金子光晴のあがきは、今こそ現代に生きる人間のありうべき最高の誠実さとして輝いている。日本文学の傑作だと思います。必読です。

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中央公論新社から発売された金子 光晴のどくろ杯 (中公文庫 A 81)(JAN:9784122003286)の感想と評価
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