リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法 の感想

世の中にまち再生コンサルタントと称する人々はあふれており、大は大手シンクタンクから小は個人まで、いずれも官庁から発注される企画業務で日々の糧を得ている。そして時々、それをまとめて著書として出版する。一方、多くの地方自治体は人口減少、高齢化、財源不足、地域の衰退でその再生のために藁をもつかむ思いで、こういう人々に策を尋ねる。しかし残念ながらこうして得られる成果は極めてみじめな結果を生んでいることは現実の地方自治体を見に行けば歴然としている。こうなる原因ははっきりしている。これらコンサルの多くは机上の空論を繰り返し、数字の操作で甘い将来予測を結論とし、自治体の担当者に一過性の陶酔を与えるにすぎないからである。
しかし、本書の著者は全く違うタイプの人物である。先ず著者は学者ではなく、コンサルでもなく、一人の実践者なのである。著者経歴には書かれていないけれども、既に60歳を超した著者は現在に至るまで様々なビジネスを自ら実践してきた。店舗、飲食、エイジェントなどの体験の末、多くの識者の信頼を勝ち得て、公的規模の再生事業に相次いで出馬を乞われ、現在は大学院で教えている。この著者の一言一句はすべて体験に基づいており、挙げられている成功事例の多くは著者自身が身銭を投じて成功に向けた真剣な取り組みの末成功しているのである。このようなコンサルは我が国では皆無であり、本書を読めばこのようなリスクテーカー以外の人を信頼することの愚を思い知らされることになるであろう。とはいえ、これは平易な文体でやさしくその方法論を説いており、全国の心ある読者たちや学生たちが本書の説くところを学んでそれを実践することを心から願う。