古代史の謎は「海路」で解ける (PHP新書) の感想

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参照データ

タイトル古代史の謎は「海路」で解ける (PHP新書)
発売日販売日未定
製作者長野 正孝
販売元PHP研究所
JANコード9784569823515
カテゴリ » ジャンル別 » 歴史・地理 » 歴史学

購入者の感想

前提は正しいのだろうが、結論に至る過程はあまりに飛躍している。

自信をもって反論できる範囲で書くと、瀬戸内の沿岸に住んで、カヌーやヨットを楽しんでいるが、3世紀の舟がどうして瀬戸内を航海できないのか理解できない。瀬戸内は流れが速く岩場も多いので江戸時代などは大型船の海難事故は多かったが、流れに沿えば小舟にとってはむしろ楽な場所が多いからだ。筏を使って島に渡ったことがあるが、流れに逆らっては全く進めないのに、ほとんど漕がないでも流れに乗れば十分進む。もっとも恐ろしいのは大型船の引き波である。
作中に「待っても通れない。干満差があり、水面下に岩礁があるような海では、船がぶつかると破損、転覆してしまう」とあるが、間違ってはいないが喫水の浅い古代の小型刳り舟に当てはめるのは適当とは思えない。
「当時の笹船のような小舟(後の戦国時代の早舟)」とあるが、これに至ってはもはやどうしようもない。刳り船と水押し造りの構造船を同一にくくられてはまともな論考ができるとは思えない。

平安時代あたりまで、瀬戸内の標準的な一日の航海距離は最長30km程度。それに合わせて各地に津が設けられる。各津が整備される前の時代は航続距離はさらに短くなると思われるが、それでも航海はできただろう。刳舟はもともと座礁に強いし、著者も書いているように、一日2回ずつ東西に流れが変わるので、汐待しているだけでほとんど漕がずに移動できるからだ。入出港時と、海峡部のあまりに急流な部分のみ、流れが収まる時間帯に漕いで移動すればよい。一日の航続距離に関する話から、櫂を想定していて艪についての理解の乏しさも伺える。

もちろん航路に対する知識は必要だが、地元民の協力があれば決して通れない航路ではない。実際、瀬戸内の多くの島の古墳からでる遺物は、九州系のものも大和系のものも多くある。香川県のサヌカイトの流通は、3万年前からの古代流通のモデルとして、それこそ教科書にもあげられる。これが全て陸路で、最短距離のみ船で運ばれたと考えるのはあまりに苦しい。

著者は赤壁の戦いについて、
「魏の曹操は〜蜀の諸葛孔明と呉の孫権の連合軍にその船団が焼き討ちをされ敗れる」
と書いていますが、そのような事実はありません。

それは小説の世界であって、
著者が度々引き合いに出す「魏志倭人伝」が収められている正史『三国志』、
あるいは他の史書に記された内容とは異なります。

歴史の事実は、魯粛が孫劉連合を主導したフィクサーであり、
抗戦を決断したのは孫権・周瑜で、焼き討ちしたのは周瑜率いる孫権軍です。
歴史上、蜀はまだ存在していないうえに、
赤壁の戦いにおける諸葛孔明の役割はないに等しいといって過言ではありません。

以上は本書の本題ではありませんが、
本旨の推理も後世のフィクションに引きずられる傾向があります。

このあたり、「一次資料そのものが創作」と言い切る著者の特徴かもしれません。

例えば、「帰化人」という言葉を度々用いていますが、
これは後世に作られた物語による概念です。

古代、日本列島と大陸との間に「帰化人」など存在しません。
「魏志倭人伝」にあるように朝鮮半島南部から倭人の住むところ、
つまり倭語を話す人々であり、帰化するもなにも区別自体が存在しません。

その理由は、著者の主張するように「海洋民族」だったからでしょう。

そもそも無人地帯であった朝鮮半島に初めて移り住んだ現生人類が、
日本列島から渡った縄文人だったのですから当然ともいえます。

また、『三国史記』には新羅の王家は著者のいう「丹後王国」の
出身と書かれていることをもっと重く捉えていただきたかったです。

そうすれば大雑把に、日本海側諸国と新羅の陣営、ヤマト王権と百済の陣営。
両陣営の暗闘があったと想定しての推論(妄想)があるべきだったと考えます。

いずれにしても、「海路」の重要性を訴え、
日本海側に焦点を当てていることはもっと注目されるべきだと思われます。

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