The Better Angels of Our Nature: Why Violence Has Declined の感想

現代世界が誇るトップクラスの知識人であるスティーブン・ピンカーの最新巻。本書のテーマは「社会における暴力の減少と、その理由の考察」である。

本書のタイトルはリンカーンが就任演説で用いた言葉であり、「人間を暴力から遠ざけ、利他行動と協調へと誘導する心的要因」の意味で用いられている。

本書は約800ページだが、通常のペーパーバックの小説と比較して1ページ当たりの語数が二倍ほどある。そのボリュームのため、日本語訳の出版はかなり困難なのではないだろうか（出版されたとしても、かなり時間がかかると思われる）。

ただし分量が多いとは言え、内容が知的な刺激に富んでいるばかりでなく文章に著者の人柄の温かさやユーモアが感じられるため、私は途中で飽きることなく（数か月かけて）読み終えることが出来た。

著者は専門の心理学の枠を超え、生物学や歴史学などの学際的な知見を総動員して本書を執筆している。ピンカーの見識の広さと深さに、私は驚嘆した。

以下に、各章の概要を述べる。

第一章 A Foreign Countryでは、歴史的な資料を参照しつつ、人類の残虐性がいかに凄まじいものであったかを詳述している。心臓の弱い人にはかなりショックが強い記述が多いので注意が必要だ。

第二章 The Pacification Processでは、社会制度や法制がいかにして人間の暴力に抑制的に発達してきたかが記されている。

第三章 The Civilizing Processにおいては、中世から現代にいたるまでに欧州で見られた殺人発生率の減少に焦点があてられている。

第四章 The Humanitarian Revolutionでは、中世の残虐な処刑法、奴隷制度、死刑制度などが扱われ、啓蒙と文明化による暴力の減少が論じられる。

第五章 The Long Peaceでは、大規模戦争が少なくともここ数十年で大幅に減少していることが記されている。

第六章 The New Peaceでは、近年になってより注目されつつある市民虐殺やテロが扱われる。

第七章