朗読者 (新潮文庫) の感想

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参照データ

タイトル朗読者 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者ベルンハルト シュリンク
販売元新潮社
JANコード9784102007112
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » ドイツ文学

購入者の感想

『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク著、松永美穂訳、新潮文庫)は、いろいろな意味で、心に残る一冊である。

「ぼく」は、15歳の時、学校帰りに気分が悪くなり、吐いてしまった。その時、通りがかりの女性が親身に面倒をみてくれたことから、その母親のような年齢の女性を好きになってしまう。逞しいけど女性らしい体つきで、いい香りのする美しい女性との愛の日々は、夢のようであった。

やがて、彼女はハンナという名で、36歳で、家族はおらず、2〜3年前から市の路面電車の車掌をしていることを知った。

――ハンナはぼくが学校で何を勉強しているのか、知りたがった。「ぼくたちは、テクストを読んでるんだ」、「読んでみて!」、「自分で読みなよ。持ってきてあげるから」、「あんたはとってもいい声をしてるじゃないの、坊や、あたしは自分で読むよりあんたが読むのを聞きたいわ」、「声がいいかどうかなんてわからないよ」。ところが、ぼくが翌日やってきてキスしようとすると、彼女は身を引いた。「まず本を読んでくれなくちゃ」。彼女は真剣だった。ぼくは彼女がぼくにシャワーを浴びさせてベッドに入れてくれるまで、30分間『エミーリア・ガロッティ』を朗読しなければならなかった。

――朗読し、シャワーを浴び、愛し合い、それからまたしばらく一緒に横になる・・・それが、ぼくたちの逢い引きの式次第になった。

――ぼくたちは復活祭の次の週、自転車で4日間、ヴィムプフェンやアモルバッハ、ミルテンベルクに出かけることができた。両親にどう説明したのだったか、もう覚えていない。

――ぼくたちは、朗読し、シャワーを浴び、愛し合い、寄り添って昼寝するという儀式を相変わらず続けていた。ぼくは『戦争と平和』を、歴史や偉人、ロシア、愛や結婚についてのトルストイの考察も省かずに朗読した。40時間から50時間かかったと思う。今度もハンナは緊張して物語の続きに耳を傾けた。

ある日、突然、彼女は姿を消した。何も告げずに。

7年後、思いがけず、ぼくは法廷でハンナと再会する。ぼくは裁判を傍聴する法律ゼミの学生として、彼女はナチス時代の強制収容所を巡る裁判の被告人の一人として。

青春の一幕だったはずの人が、時を経て再び自分の前に現れる。
知識も経験も積み、互いの状況も環境も変わっての再会は、昔、愛したという思いがあるだけに目をそらすことができず、かといって当時の恋愛感情のような激しい思いはなく、静かで冷ややかである。
当事者だった自分、傍観者となった自分、そしてその後、当事者にも傍観者にもなれず、居心地のよい距離をつかめずに過ぎていく時間。思いは立ち止まっても時間は立ち止まらない。
ナチスドイツのホロコースト(大量虐殺)が背景になってはいますが、私自身はそこにあまり重きを置いては読みませんでした。もちろん物語上はずせないテーマではありますが、それ自体よりも、そこから生まれた一人の人間の哀しい生き方、そしてそれをどう受け止めたらよいか分からず、自らも哀しみを抱えることになる人間の生き方、が焦点になっているように思います。
言葉にも涙にもならないような静かな哀しみで心がいっぱいになります。それでも誰かを愛したくなります。
何度も読みたくなる作品です。

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