ルポ 中年童貞 (幻冬舎新書) の感想

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参照データ

タイトルルポ 中年童貞 (幻冬舎新書)
発売日販売日未定
製作者中村 淳彦
販売元幻冬舎
JANコード9784344983724
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会学概論

購入者の感想

取材は童貞の疑いのある中年男性を見つけては「もし童貞だったらお願いしたい」という趣旨で遠回しに頼んだという。しかしその時の反応は良くて無視、多くは「ふざけるな。失礼だ」とキレられたという。

こんな苦難を経て取材したものの中には興味深いものが多い。
事例1。「非処女は誰かのお下がりなので嫌です。もし人生でエッチをするようなことがあるならば、誰かの処女をもらいたい。その人を自分だけのものにしたいって独占欲が強いです。付き合った男が一人くらいならば、友達程度で付き合えるかな。とてもエッチはできないですね。2,3人になるともう考えたくない。人間じゃないって思っちゃうかも。処女はなにも知らなくて、きれいで、失われてないからいいですね。付き合うのは処女が絶対条件です。童貞好きみたいなことをいう女性がいるけど、自分だったら絶対に逃げます。もし自分がエッチの経験をしちゃったら処女のきれいな女の子に相手にされなくなるだろうし。理想の女の子に出会うまで待ち続けます。」

事例2。「本当は女性に好かれたくてモテたくて仕方ないのに、絶対それは叶わない。だから徹底的に逃げているのです。それが不可能になるように、自分の男性性を徹底的に破壊して、つぶして。本当は女性に受け入れてほしいのに、逃げるように男性同性愛者のフリをしている。既成事実を作るために男性とセックスしたり、ネットでゲイ動画やホモ映像を見たり検索したりして男性を相手に性的興奮できるようになった。」

なかなかのスクープで読みごたえがあった。

この本の著者は、対象を客観的に記述した後に考察を加えるのではなく、およそ童貞は「キモチ悪い」という偏見ないし主観的結論がまず先にあり、その結論に沿うようなエピソードを並べている。インタビュー形式で書いてはいるが、随所で我慢できなくなり、長々と持論を展開し始める。

なぜここまで主観的・一面的な筆運びになるのか。それは著者自身が「キモチ悪い」童貞マインドの持ち主だからに他ならない。あたかも取材対象が語る様々の「キモチ悪さ」の原因は、おしなべて性行為の経験がないことであり、性行為さえすれば、諸々の問題がすべからく解決するかのごとくである。いったいこの著者にとって、性行為はどれほどの万能薬・魔法の杖なのであろうか。これほどに性行為の意味を肥大化させ、神格化させている者を見るのも珍しい。しかし、まさにその着想、性行為を過大評価し崇めるその発想こそが、残念ながら、「キモチ悪い」童貞のそれなのだと知るべきである。世間では、こうした症状を、「こじらせている」という。

要するに、著者自身の性的コンプレックスを取材対象者に投影し、取材対象者に仮託して語らせた著者自身の性的不全感をネチネチ弄くりまわすことによって、著者自身が溜飲を下げているのである。プライドが高いだの、コミュ障だの、介護という美名のもとに群がるだのと好き放題に描かれた他者の姿は、鏡に映った著者自身のそれと言う他はない。つまるところこの本は、著者の、著者による、著者のための自己紹介本なのである。こういうのをルポルタージュとは呼ばない。

この程度の文章が、週刊誌のゴシップとしてではなく、新書の装いで世に出回っていることを嘆かわしく思う。知的貧困は、なにも政治の世界に限った話ではない。

読み終えた瞬間浮かんだのは、反発と共感という二つの相反する気持ちだった。

反発というのは、まず、200万人はいるとされる「中年童貞」を描き出すのに、たった数人のインタビューでよいのか、ということ。
対象者を見つけるのが難しいという問題をおいても、この数人だけを見て全体像を分析するというのは、少々無理があるように思える。

そして、本書に出てくる人々の問題をすべて「中年童貞」に結び付けることの無理。
本書誕生のきっかけは、著者が介護の仕事で出会った中年童貞のトラブルメーカーだったというが、これはもう本人自身の問題であり、「だから中年童貞は」という話にはならないように思うのだ。

また、この例のように、中年童貞は職場などでトラブルを起こすことが多いという。
では、見合い制度が発達しており、婚姻率が高かった(=中年童貞が少なかった)頃には、職場には問題児が少なかったのか。そんなことはないだろう。

ただ、こうした多くのアラを差し引いても、いろいろと考えさせる一冊であったのは事実。

まず、本書のインタビューを読めば読むほど、「自分もまた、中年童貞になっていたのではないか」という思いがぬぐえないこと。
「女性にあざ笑われているように感じる」「自分の世界を壊すのが怖い」「いまさら妥協したくない」……彼らの発する言葉の大半が理解できるか、かつて自分も思っていたことばかりだからだ。
その後、なんとか現実との折り合いをつけられるようになってきたわけだが、もしそこから抜け出すきっかけが得られなかったり、トラウマになるようなマイナスの体験をしていたら……この状況から抜け出せなかったかもしれない自分が容易に想像できるのだ。

また、本書のテーマとは外れるが、介護の仕事に普通の職場では働けないような人が流れてくるという問題は、確かにありそうな話だと思う。
これは介護する側、される側双方にとって大きな問題だろう。

では、どうするか。
著者が答えを求めるのは、なぜか、著者がよく知るAV界の人。

これまで、AVや風俗から、介護、ブラック企業までの著作がある著者の最新作です。
元は幻冬舎Plusに連載していた記事をまとめ、加筆修正したものなので、連載を読んでいたこともあり、すんなりと読めました。

著者が介護事業に進出したときに様々なトラブルに見舞われ、その原因を探ったところ「中年童貞」問題に行き当たった、とのことで、過去、AVや風俗に関わった経験が無ければ出てこなかった視点と思われ、興味深い視点ではあります。
また、実際にインタビューして集めた声は、生の声であり、貴重なものかも知れません。

ただ気になるのは「中年童貞」に拘り過ぎているように感じます。
「中年童貞」はあくまでも一つの結果であって、様々なトラブルに原因では無いと思われます。
環境であったり、本人の性格であったり、親であったり、という状況が組み合わさった時に、社会に適応出来なくなる人格が形成されてしまい、それが結果として、中年童貞となったり、職場への不適合で有ったり、という結果に繋がるのではないでしょうか。

「中年童貞」という状態(結果)を治そうとしても、上手く行かないような気がします。童貞で無くなったら、万事解決するか、と言われると、極めて疑問です。
第五章とわざわざ一章使って童貞喪失を目指す学校を取り上げることに、極めて違和感があります。
第七章で婚活パーティーの主催者のインタビューが掲載されていますが、同じような場になるのでは無いかとも思えます。あるいは、AKBが金を吸い上げてますが、同じように金を吸い上げる場にならなければ良いが、と思ってしまいます。
極めて個人的な問題にそこまで立ち入る必要があるのか、という気もします。

社会の変化に対応出来なかった、進化出来なかった人に見えてきます。
ただ、社会に不適合な人が増加していっている以上、問題ではあります。
職場における一人の戦力を1とすると、こういった人が戦力0ではなく、マイナス(他の人が働くのを阻害する)になること、また、顧客離れを招くこと、他の職員の離職に繋がることから、企業経営にとって極めて脅威である事を考える必要が有るかも知れません。

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