メカニズムから理解する馬の動き パフォーマンス向上のためのビジュアルガイド の感想

原著者のGillian Higgins　は、イギリスの総合馬術の優れた選手でトレーナーのようです。
（ドイツのトップクラス総合馬術選手ホイの”推薦の言葉”より）
このことから推測されるように、本著はハイレベルにいたる『馬術競技の馬』の動きを、優秀な『ライダー・馬術調教の視点』から分析した、画期的な本だと思われます。

馬体に骨格や筋肉をペイントしていることが、一般には新奇に受け止められるかもしれませんが、それは手法的なことであり、それよりも本書の本質は、馬術の歴史の深い欧州での、馬術競技馬をプロデュースする色々な理論や手法（マッサージや管理法まで）が、解剖学など科学に関連づけられて、平易に述べられている点だと思います。

日本では圧倒的に競走馬が多く、馬に乗るのは騎手または調教関係者というごく少数の特殊なプロフェッショナルであることから、科学書寄りの本では「レース馬の動き」や「レース馬におこる障害」を「地上から観る・診る」という視点が多いように思われますが、
本著では、馬を「乗る人間」の目線から見て、「馬術競技における馬の動き」を解剖学と関連づけ、主に馬術競技馬の障害の起こり方、その予防につながるライダーの乗り方の注意点・トレーニングの注意点まで、「馬に乗る人」から見たポイントが感じられる点が、特徴的です。

乗馬関係者はもちろんのこと、獣医師にも、「乗馬をする人から見た馬のとらえ方」が分かることで、より理解が深まると思われます。

原著も素晴らしいものですが、翻訳者の方々も、欧米の馬の獣医学のみならず、馬術競技にも大変詳しい獣医師で、さらに馬バイオメカニクス研究の第一人者でもあることから、正確なとても分かりやすい翻訳となっており、これは日本の馬愛好家にとって非常な幸運だと思います。

図・写真もカラーで分かりやすく、文も経験豊かな調教者・ライダーのエッセンスが感じられる、隅々まで熟読したい一冊です。