中東 新秩序の形成―「アラブの春」を超えて (NHKブックス) の感想
参照データ
タイトル | 中東 新秩序の形成―「アラブの春」を超えて (NHKブックス) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 山内 昌之 |
販売元 | NHK出版 |
JANコード | 9784140911884 |
カテゴリ | ジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門 |
購入者の感想
アラブの春以降、中東に民主化の波が来ようかとしていた。
チュニジアに始まり、エジプト、リビア等さまざまな地域にその影響は広まった。
だが、実際にはその流れはなかなか進んでいない。
中東では何が起きていて、これからどのように変化していくのか。
前半は、民主化の流れが起きたアラブ圏の話が取り上げられる。
体制内変革(チュニジア、エジプト)、暴力的変革(リビア、シリア、イエメン)、体制内変革から暴力的変革への転落(バーレーン)と分けて、それぞれの国の状況や体制を見ながら、いかなる変革が起きたのかを簡潔にまとめている。
オマーンの稀有な成功例、サウジアラビアの老獪な立ち振る舞いなども併せて紹介されていて、コンパクトながらポイントは押さえられる。
後半は、アラブ以外の国々、イラン、トルコ、イスラエルが取り上げられる。
本書のメインは前半部分なのかと思うが、個人的にはこの後半部分の方が、筆者の思いが強いからか、面白く感じられた。
イランにおけるアフマディネジャドとハメネイの攻防、ナクバから始まるパレスチナの悲劇に引き付けすぎるハマスの悪循環など、簡単にほどけない中東のジレンマが描き出されている。
ISILの脅威が強まる現在において読むと、反米でももはやテロに与しなくなった、という筆者の評価はかなり楽観的だったように思う。
ただし、根源たるイラクについては本書ではほとんど触れられておらず、それはイラク情勢が筆者をしても「容易に予測できない」と思ったことの表れなのかもしれない。
全体としては、中東のおおきな動きがまとまっており、中東情勢を理解する骨格として意義のある本だと思った。
チュニジアに始まり、エジプト、リビア等さまざまな地域にその影響は広まった。
だが、実際にはその流れはなかなか進んでいない。
中東では何が起きていて、これからどのように変化していくのか。
前半は、民主化の流れが起きたアラブ圏の話が取り上げられる。
体制内変革(チュニジア、エジプト)、暴力的変革(リビア、シリア、イエメン)、体制内変革から暴力的変革への転落(バーレーン)と分けて、それぞれの国の状況や体制を見ながら、いかなる変革が起きたのかを簡潔にまとめている。
オマーンの稀有な成功例、サウジアラビアの老獪な立ち振る舞いなども併せて紹介されていて、コンパクトながらポイントは押さえられる。
後半は、アラブ以外の国々、イラン、トルコ、イスラエルが取り上げられる。
本書のメインは前半部分なのかと思うが、個人的にはこの後半部分の方が、筆者の思いが強いからか、面白く感じられた。
イランにおけるアフマディネジャドとハメネイの攻防、ナクバから始まるパレスチナの悲劇に引き付けすぎるハマスの悪循環など、簡単にほどけない中東のジレンマが描き出されている。
ISILの脅威が強まる現在において読むと、反米でももはやテロに与しなくなった、という筆者の評価はかなり楽観的だったように思う。
ただし、根源たるイラクについては本書ではほとんど触れられておらず、それはイラク情勢が筆者をしても「容易に予測できない」と思ったことの表れなのかもしれない。
全体としては、中東のおおきな動きがまとまっており、中東情勢を理解する骨格として意義のある本だと思った。
「アラブの春」は2011年「自由・法治・裕福」を目指し北アフリカのチュニジアから勃発し、エジプト、リビア、イエメンと広がり、いまだにシリアでは政権と反政府勢力の間で血を血で洗う抗争が続いている。本書では青年人口の爆発(日本で言えばかつての「団塊」世代か?)がこの間の変動の背景にあることを示唆しながら、それぞれの国の現代史と政治の特徴がまことに要領よく明らかにされる。日本ではあまり知られていないアラブの知識人・文学者の格言なり箴言を知るというトリビアもある。
それでもなお「よく判った」と言い切れない読後感が残るのは、四度の戦争で領土を拡大しかつ核兵器を保有しているいわば“帝国主義”イスラエルがこの地域で果たしている“悪”の役割の追及がいまひとつ弱い点である。ソーシャル・メディアにイスラエル情報機関の秘密工作はなかったのか。
また中東の混乱の起源でもある覇権国家アメリカについて、オバマへの期待を含めてやや楽観的過ぎないかという危惧である。「絡まる糸を解きほぐす」という著者の意図は必ずしも実現していないと評するのは酷であろうか。
それでもなお「よく判った」と言い切れない読後感が残るのは、四度の戦争で領土を拡大しかつ核兵器を保有しているいわば“帝国主義”イスラエルがこの地域で果たしている“悪”の役割の追及がいまひとつ弱い点である。ソーシャル・メディアにイスラエル情報機関の秘密工作はなかったのか。
また中東の混乱の起源でもある覇権国家アメリカについて、オバマへの期待を含めてやや楽観的過ぎないかという危惧である。「絡まる糸を解きほぐす」という著者の意図は必ずしも実現していないと評するのは酷であろうか。