これから「ハリー・ポッター」の話をしよう の感想

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タイトルこれから「ハリー・ポッター」の話をしよう
発売日販売日未定
製作者中村圭志
販売元サンガ
JANコード9784904507674
カテゴリ文学・評論 » 評論・文学研究 » 外国文学研究 » 英米文学

購入者の感想

帯に「20歳になってわかる寓意文学の哲学」とあるので、ファンタジー文学をあまり読まない思想系の研究者が、そちらの分野の考え方やシステムを移築してななめから読み解く本かと思い、なかなか手を出さずにいましたが、パロディなタイトルや帯をはるかに凌駕した、渾身の分析と作品への愛情が読み取れる快作でした。

序論では映画もふくめてざっと全体像に触れていますが、それだけでも主題とキャラクターの読みときの深さがうかがえ、第二部ではいよいよ全巻それぞれの総括とまとめに入ります。あらすじ・キーワード、おもなテーマが述べられ、一般的な「○○がよくわかる本」のレベルではなく、各巻の核心に踏み込んでいます。一年間のカレンダーで事件をまとめてあるのも親切です。
 たとえば四巻『炎のゴブレット』では、それまでの胎内回帰的な楽園の魔法学校の物語が終わり、ハリーたちが社会という外気にさらされてゆく、という展望が示され、そこでのハリーの課題としてフェアプレーが、ロンの場合は不平等が、ハーマイオニーの場合には解放運動がたちあがってくるという具合に、クリアーに整理されます。
 ことに全巻を通じて圧倒的にうまいと思ったのは、ロンの分析で、孤独な英雄のハリーや知性のハーマイオニーのあいだにあって、「道化」「二番手」「癒やし系・頓知」という、三角の中でも微妙なスタンスに立っていることが何度も強調されます。

 三部は魔法の使われ方や働きの構造、キャラクターの対比や対立関係で、ここではいよいよ図式化と図表化が活躍、あんまりきれいに整理されすぎることにかすかに違和感を覚えながらも、説得されてしまいます。ハリーの直線的時間、ハーマイオニーの日常の円環的時間とか、トレローニー先生の予言の内実とか、ヴォルデモートとハリーの対称関係とか、実にキレのよい分析で、帯の「寓意」とはやや違う位相で、物語に密着した整理と分析をしています。そのうえに付録として、おそらく著者の専門であろう「宗教学的に見たハリポタ」がついていますが、これはわずか十ページほどで、著者も一般的な常識を述べるにとどまっています。

 みごとな分析に充ち満ちた本で、図表としての整理も割り切り感が強いながら、説得力があります。

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