破獄 (新潮文庫) の感想

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参照データ

タイトル破獄 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者吉村 昭
販売元新潮社
JANコード9784101117218
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学

購入者の感想

最近テレ東でやっていたビートたけしの主演ドラマを見て、原作が読みたくなり購入しました。
テレビドラマでもなかなかの迫力で、戦前・戦中・戦後にかけて、日本の刑務所の中の実態の
一部を垣間見ることができます。

佐久間清太郎(仮名)という戦前から戦後に掛けて4回の脱獄に成功した人物を題材にした作品。確かに、佐久間の脱獄技は名人芸と呼ぶに相応しく、それなりに興味深いが、作者の思惑は佐久間の"人となり"を描く事ではなかったと思う。佐久間の人間性は作品にする程には魅力に乏しく、ゲーム感覚で脱獄を繰り返した様である。作者が採り上げる題材としては弱い感があり、実際、佐久間に関して筆を割いている箇所は少ない。

それよりも、戦前から戦後に掛けての、日本の治安・食糧事情・政情といったものを浮き上がらせる意図があったと思われる。日本全国の刑務所の食糧事情、空襲による被害状況、入隊・入営の増加による看守の質の低下等を描けば、そのまま、当時の日本の治安・食糧事情・政情を描いた事になり、これは成功していると思う。物価、配給量、刑務所の収容人数、空襲による被害者の人数等は、作者らしく夥しい具体的数字で提示されている。本作を読んでいて、戦争の事がずっと頭を離れなかった。全編を戦争の空気が覆っているのである。

また、「看守(監視する者)vs佐久間(監視される者)」の駆け引きといった人間心理を扱っている箇所もあるのだが、これも戦後統治下の「アメリカvs日本」のメタファーの様に映った。私は、「自然への畏怖・畏敬の念」をテーマにした作者の記録文学のファンなのだが、それらよりはやや求心力が乏しい感がある。それでも、脱獄の名人を通して、戦前から戦後に掛けての日本の世相を描くという作者の構想力には感心させられた。

 脱獄を繰り返した人のノンフィクション的な話です。全体的に淡々と話が進む中で、映像が浮かぶような現実感がありました。主人公のかなりスーパーマン的な人物でありながら、非常に人間味がある。でも、決して魅力的な人間ではありません。自首、逮捕、脱獄、逃亡を繰り返します。脱獄の手口はなるほどよく考えられた様々な手法があり、また著者の解説をする語り口も魅力的です。しかしながら、現代の科学的な刑務のもとではではおそらく不可能であろうと思います。
 単なる脱獄犯の話ではなく、著者はその時代に何か起こっていたかということを多く語っています。第二次世界大戦を交えた昭和の初期から戦後にかけての時代背景を織り込みながら、敗戦ムード漂う状況から米軍統治にいたった時期における刑務所、拘置所の状況も時代に揺れる様を表現し、看守の心理状況も伝えている。
 読後感が非常によかったです。
 

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