暴力はどこからきたか―人間性の起源を探る (NHKブックス) の感想

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タイトル暴力はどこからきたか―人間性の起源を探る (NHKブックス)
発売日販売日未定
製作者山極 寿一
販売元日本放送出版協会
JANコード9784140910993
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 生物・バイオテクノロジー » サル・人類学

購入者の感想

世界中で起きているテロを含む戦争行為を憂う著者が、霊長類学者の立場から、「人間の暴力性の起源」を論じた本。

第一章では霊長類観の歴史を丹念に辿り、ゴリラを初めとする霊長類が決して好戦的ではない事を示す。"食と性"のために巧みに共存しているのだ。第二章では、その背景として植物の進化(被子植物の繁栄)と霊長類の社会性の関連がやはり丹念に語られる。樹上生活と絡んで、"食と昼行性(捕食者への防御)"が霊長類の社会性を育んだと言う。第三章では、社会性のもう一つの要因"性"が分析される。メスの群居性にオスの集散が左右されると言う話は分かり易いし、インセスト・タブーが霊長類の世界にもあったとは驚き。いずれも観念論ではなく実例を基にした論なので説得力があり、これが本書の強みと言える。

第四章では、"食や性"の葛藤を抑えて人間が何故社会性を持ったかを、霊長類をベースに考察する。(特にオスの)優劣関係をハッキリさせるニホンザル。一方、群れの中での共存に気を配るゴリラ。チンパンジーやボノボでも食物の分配行為が見られる。各種各様であるが、性の対象の方は共有できない。様々な例が挙げられるが、メスの戦略(ダーウィン流性淘汰)が活きているように思える。そして、最終行のオス・ゴリラの(他親の)子殺しの話題から本題の最終章へ。この侵略オス・ゴリラによる子殺しは社会生態学的に他の現象(メスが群れを離れない理由等)も巧く説明出来るとする。子殺しを行なわない霊長類は、単独生活やペア生活を送っている場合か、複雄複雌の場合と言う。そして、人類の暴力の起源は直立二足歩行と家族(共同体)にあると結論付ける。そして、言語の獲得と土地所有と過去に繋がるアイデンティティとがそれを拡大した。霊長類学から見た地に足の着いた議論だが、結論とその対策にもっと頁数を割いても良かったのではないか。

過日、NHKの番組で、著者の山極寿一がかつてフィールドワークを行なったマウンテンゴリラのいるルワンダを20数年ぶりに再訪する番組を観た。これは感動的なものであり、ゴリラの生態と彼の地の戦争状態の不幸が密接につながっていることをわからせてくれた。こういう番組をやるのであれば喜んで料金を支払えるというものだ。ポアンカレ予想を解いたペレルマンの番組以来の感動であった。

20数年前に出会った6歳のオスゴリラは、いまやシルバーバックとして群れを率いるボスとなっていたが、彼は山極を明らかに覚えており、再会の場では山極から視線を離さない。何ということだろうか! 言葉を失ってしまった。

山極は、今西錦司、伊谷純一郎、河合雅雄らの京大の世界的な霊長類研究の伝統を継ぐ学者であると知っていたが、今回初めてその著書を読んだ。
今西の動物社会学的な仕事には、あまりにも人間社会と動物社会を直結させすぎるという気がして、ほんまかいなという感想を持っていた。
現在、その研究の成果はどのようなものとして認識されているのだろうか。その一端は本書にも見えるが、ゴリラ社会がゴリラの群れの原理を変えてしまい、それによって必然的にゴリラ個々の在り様を変えていくという当然の成り行きについて、そしてその研究が少なからず人間を照らし出すということが本書によってよくわかると思われる。

熟読に価する1冊だ。0

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日本放送出版協会から発売された山極 寿一の暴力はどこからきたか―人間性の起源を探る (NHKブックス)(JAN:9784140910993)の感想と評価
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