線型代数入門 (基礎数学1) の感想

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参照データ

タイトル線型代数入門 (基礎数学1)
発売日販売日未定
製作者齋藤 正彦
販売元東京大学出版会
JANコード9784130620017
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 数学 » 代数・幾何

購入者の感想

まず, 線型代数の本を読むときに便利な方法を紹介しよう.

線型空間Uの基底BとはUに含まれる線型独立な元の順序を考慮した集合(あるいは列)BでUの任意の元はBの元の線型結合で表わされることをいう.

基底E=〈e_1, e_2, …, e_n〉とEの元を横に並べてできる行列もどき(e_1, e_2, …, e_n)を同じ記号Eで表わすと,

行列P=(p_ij)による基底の取り換えF→Fは行列の積もどきとf_j=Σ_i p_ij e_iより形式的に

F=(f_1 … f_j … f_n)=(e_1 … e_i … e_n)(p_ij)

すなわちF=EPと表わされ,

Eを基底とする線型空間VからFを基底とする線型空間Wへの線形写像Tの表現行列A=(a_ij)に対して, TE=(Te_1 Te_2 … Te_n)と定義すると, 行列の積もどきとTe_j=Σ_i a_ij f_iを用いて形式的に

TE=(Te_1 … Te_j … Te_n)=(f_1 … f_i … f_m)(a_ij)

すなわちTE=FAと表わされる.

これを使うと特にこの本は読みやすくなる. (具体例の計算では両者とも両辺を転置する: 縦に並べてiとjを入れ替える; 佐武「線型代数学 (数学選書 (1))」や「線形代数講義

数学や他の分野の方々には申し訳ないですが,物理の人間として書きます.
経験に照らしてみても,(非数学の)初学者が気楽に読めるような本とはいえませんが,非常に良い本であることは間違いありません.

(初等)物理の中で線型性は非常に重要な概念です.
まず,数々の物理法則は微分方程式の形で書かれますが,大抵は線型の微分方程式です.
例えば,大抵の電磁気学の本は,静電場を記述するクーロンの法則からはじまると思いますが,重ね合わせの原理を用いて,多電荷の系へ拡張し,さらに電荷が連続分布した系へと拡張していきます.
このとき用いる重ね合わせの原理を数学的に述べると,微分方程式の線型性です.
また線型空間の理論は座標による表示を離れる,という幾何学的な面もありますが,これは物理法則の共変性を定式化する際に大事になってきます.

もっと本質的に線型性が出てくるのは現代物理の要たる量子力学です.
正確には量子力学で用いるのは無限次元の線型代数(関数解析)ではありますが,基本的な思想を学ぶには有限次元の線型代数(本書の程度!)で十分です.
応用上も大事な正規作用素のスペクトル分解(対角化と同値)について触れてあるのも嬉しいところです.

最後に行列の解析的な取り扱いがありますが,これには,そもそも行列の関数(指数関数や対数関数)を定義する,という応用上も大事な議論が含まれています.
たとえば,量子光学で現れるコヒーレンスを扱うときなどに,これを知っていると,戸惑いがなくなると思います.

かなりマニアックな話(数理物理的観点)で恐縮ですが,Perron-Frobeniusの定理の前に「工学や経済学への応用上重要」という説明がありますが,この定理は厳密統計力学への多数の応用があります.
この定理には正値性保存(または改良)作用素の理論という無限次元版がありますが,これはたとえば,汎関数積分(経路積分)法の威力を高めてくれます.

学部の4年にもなれば,物理で線型代数が重要なことは身にしみて分かります.
特に量子力学においては決定的です.

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