世界は分けてもわからない (講談社現代新書) の感想
参照データ
タイトル | 世界は分けてもわからない (講談社現代新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 福岡 伸一 |
販売元 | 講談社 |
JANコード | 9784062880008 |
カテゴリ | 本 » ジャンル別 » 科学・テクノロジー » 科学読み物 |
購入者の感想
始まりはエッセイのように。しばらく読み進めると
科学者の目線に誘導され、構えると歴史とミステリーの
目線で興味を継続させ、後半は科学者の孤独と苦しみを
吐露しながら実際の「事件」を丁寧にトレースして読者に
決して席を立たせない・・・・
ストーリー構成と展開が見事で一気に読んでしまいました。
生命の最小単位の細胞の成り立ちとメカニズムから、
世界は分けられない(分けることはできても世界としての
意味がなくなる)という仮説を展開されています。
デザインやITの分野を出自とするシステムシンキングと
同じ主張になるところが面白いです。
ヒトはマップヘイターである細胞から成立しているにも
かかわらず、なぜマップラバー的な考えになる人が出て
くるのか?というのをぼんやり考えています。
ずっと追いかけたい作者に出会うことができて幸せです。
科学者の目線に誘導され、構えると歴史とミステリーの
目線で興味を継続させ、後半は科学者の孤独と苦しみを
吐露しながら実際の「事件」を丁寧にトレースして読者に
決して席を立たせない・・・・
ストーリー構成と展開が見事で一気に読んでしまいました。
生命の最小単位の細胞の成り立ちとメカニズムから、
世界は分けられない(分けることはできても世界としての
意味がなくなる)という仮説を展開されています。
デザインやITの分野を出自とするシステムシンキングと
同じ主張になるところが面白いです。
ヒトはマップヘイターである細胞から成立しているにも
かかわらず、なぜマップラバー的な考えになる人が出て
くるのか?というのをぼんやり考えています。
ずっと追いかけたい作者に出会うことができて幸せです。
世界は分けてもわからないのか。
しかし、世界は分けないとわからない。
だからといって世界を分けたところで世界はわからない。
ほとんど禅問答のようであるが、本書の核となるところである。
本書は秀逸な科学エッセーである。
冒頭から分子生物学の学会の様子が描かれ、トリプトファンなどという異世界の用語が並び、門外漢には理解できなさそうな感じもするがご安心を。
生物学を題材としているが、語るべき内容は生物学の知識ではなく、科学的な世界の認識とはいかなるものかである。生物学や化学の知識は全く必要ない。必要なのは知的好奇心であろうか。
時間のない人は第7章「脳の中の古い水路」を読めばよい(本当は全部読んでほしいが)。世界の情報量は人間が理解するには多すぎるのである。卑小な人間が偉大な世界を理解するには一定の区分が必要なのである。本来の世界は分かれてなどいない連続体である。人間が理解するために切り分けたに過ぎない。切り分けた部分は集めても全体にはならない。切り分けた時点で世界は死んでいる。ただ切り分けないと世界はわからない。我々は生きた世界ではなく、死んだ世界を見ているのだ。
他にも「分ける」ということをキーワードに様々な観点、場面から世界について語られる。
生物学の話かと思えば美術の話になり、宇宙論や脳科学にも広がっていき、縦横無尽の展開についてくのはなかなかに骨の折れる。
そして第8章から11章までの最も多くのページを割くテーマが科学者の倫理である。
そこに描かれている実験室の風景はどこの社会でもあり得るのではなかろうか。
ボスの意向をくみ、ボスの意向に沿った形で結果を作り上げていく。そこには越えてはならない実証科学の敷居を超えた禁断の領域がある。本来ならばあり得ないほど仮説に沿った結果がでる。疑わなくてはならないのに結果に酔いしれてしまう。
最後にはねつ造は暴露され、天空の城は崩れ去る。ただ出発点となった仮説自体は間違っていなかったのである。仮説が仮説のままであれば偉大な仮説であったのだ。ねつ造のためにどこまでが真実でどこからが虚偽か。永遠の謎となったのだ。
しかし、世界は分けないとわからない。
だからといって世界を分けたところで世界はわからない。
ほとんど禅問答のようであるが、本書の核となるところである。
本書は秀逸な科学エッセーである。
冒頭から分子生物学の学会の様子が描かれ、トリプトファンなどという異世界の用語が並び、門外漢には理解できなさそうな感じもするがご安心を。
生物学を題材としているが、語るべき内容は生物学の知識ではなく、科学的な世界の認識とはいかなるものかである。生物学や化学の知識は全く必要ない。必要なのは知的好奇心であろうか。
時間のない人は第7章「脳の中の古い水路」を読めばよい(本当は全部読んでほしいが)。世界の情報量は人間が理解するには多すぎるのである。卑小な人間が偉大な世界を理解するには一定の区分が必要なのである。本来の世界は分かれてなどいない連続体である。人間が理解するために切り分けたに過ぎない。切り分けた部分は集めても全体にはならない。切り分けた時点で世界は死んでいる。ただ切り分けないと世界はわからない。我々は生きた世界ではなく、死んだ世界を見ているのだ。
他にも「分ける」ということをキーワードに様々な観点、場面から世界について語られる。
生物学の話かと思えば美術の話になり、宇宙論や脳科学にも広がっていき、縦横無尽の展開についてくのはなかなかに骨の折れる。
そして第8章から11章までの最も多くのページを割くテーマが科学者の倫理である。
そこに描かれている実験室の風景はどこの社会でもあり得るのではなかろうか。
ボスの意向をくみ、ボスの意向に沿った形で結果を作り上げていく。そこには越えてはならない実証科学の敷居を超えた禁断の領域がある。本来ならばあり得ないほど仮説に沿った結果がでる。疑わなくてはならないのに結果に酔いしれてしまう。
最後にはねつ造は暴露され、天空の城は崩れ去る。ただ出発点となった仮説自体は間違っていなかったのである。仮説が仮説のままであれば偉大な仮説であったのだ。ねつ造のためにどこまでが真実でどこからが虚偽か。永遠の謎となったのだ。
同じ著者の『生物と無生物のあいだ』に引き続き、読んでみたが、ベストセラーになった『生物と無生物のあいだ』に劣らず、とても知的刺激に満ちた本だ。
分子生物学のことなど、ほとんど分らないが、優れた文章のせいか、生物の謎に挑む科学者たちの研究生活が、とてもスリリングに描かれていて、読むのが止められないぐらいだった。
特に後半に出てくるあるポスドクの研究結果の偽造の件は、下手な推理小説より、読ませる。
一つ一つの章が独立した読みものでありながら、全体を通して、タイトルの主張へと結びつけている。構成力にも感心した。
最後の「世界は分けないことにはわからない。しかし、世界は分けてもわからない」という言葉は、世界を分けることで理解しようとしてきた近代科学への重要な批判だと思う。
また、文中に出てくる須賀敦子のエッセイは読みたくなった。0
分子生物学のことなど、ほとんど分らないが、優れた文章のせいか、生物の謎に挑む科学者たちの研究生活が、とてもスリリングに描かれていて、読むのが止められないぐらいだった。
特に後半に出てくるあるポスドクの研究結果の偽造の件は、下手な推理小説より、読ませる。
一つ一つの章が独立した読みものでありながら、全体を通して、タイトルの主張へと結びつけている。構成力にも感心した。
最後の「世界は分けないことにはわからない。しかし、世界は分けてもわからない」という言葉は、世界を分けることで理解しようとしてきた近代科学への重要な批判だと思う。
また、文中に出てくる須賀敦子のエッセイは読みたくなった。0