アイヌ神謡集 (岩波文庫) の感想

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タイトルアイヌ神謡集 (岩波文庫)
発売日販売日未定
販売元岩波書店
JANコード9784003208014
カテゴリ » ジャンル別 » 文学・評論 » 詩歌

購入者の感想

もし私が後世に伝えたい本を挙げるとしたら本書は上位に挙がるだろうと思われる本である。理由の一つは本書の著者である知里幸惠さんが大正十一年に書かれた冒頭の序文にある。この序文を読めばおそらく本書を手に取って彼女の思いやアイヌの言葉や物語に触れたいと思われることだろう。そのくらい心を打つ、見事で感動的な素晴らしい序文である。文学的にもアイヌや日本の美しい言葉が沢山書かれている、価値のある貴重な本だと思う。なんとこれを知里幸惠さんは十九才の若さで書かれたのである。彼女は心臓に持病があり体が弱かった。そして最期の日まで絶筆となった本書の原稿を手放さず、思いを託しながらこの世を去られた。

この序文には多くの方に触れていただきたいと思う。彼女はこの書をもって世に初めてアイヌの口承の物語と言葉を紹介した。詩才豊かでアイヌ語と日本語の双方に堪能であった彼女が書いたアイヌ語の音のローマ字表記、美しい日本語訳は素晴らしいものである。文字を持たないアイヌの言葉の音をローマ字で表記して、多くの人に知ってもらおうと尽力した彼女の功績は大きい。序文に託した思いが、アイヌの言葉や物語が後世にも大切に受け継がれていってほしいと心から願うものである。早世したアイヌの少女の思いをこうして唯一遺した本が語り継いでいってくれる―本とはなんと素晴らしいものなのだろう、と思うとあらためて深い感動がある。

冒頭の序文の後に、アイヌ民族のあいだで口承で謡い継がれてきたユーカラ(アイヌの口承の叙事詩)の中から彼女が選んだ神謡(神のユーカラ:kamuy-yukar)が『梟の神の自ら歌った謡「銀の滴降る降る まわりに」』をはじめ13篇綴られている。左頁にはアイヌ語の音を起こしたローマ字が、右頁には洗練された美しい日本語訳が書かれている。左側のローマ字表記のアイヌ語は音読しながら読み進めてみるのもよいと思う。それはローマ字で一つひとつ丁寧にアイヌ語の音を起こした彼女の願いであったと思われるし、またアイヌ語の音に直に触れながら読む事で楽しく理解を深められると思う。参考までに神謡は次のような形で綴られている。

  (左頁) "Shirokanipe ranran pishkan,           (右頁) 「銀の滴降る降る まわりに

ユーカラとは、アイヌ民族の口承文芸。
アイヌ民族にとっては道徳の教科書でもあり、神々の元を表す聖典でもあり、
その精神文化を知る上で大きなヒントを与えてくれる。

この本は、ユーカラの中から「カムイユカラ」と分類される
(知里真志保氏の分類による)ものの中から、特に13話を選んで本に編んだもの。
フクロウやキツネの自然神の一人称叙述体で、彼らの体験を語るというのが基本的な特徴である。
ページの見開きの左にアイヌ語をローマ字で、右に対訳が日本語で書かれているので、非常に読みやすい。

アイヌの口承文芸を単に訳しただけにとどまらず、非常に美しい日本語を宛てられている。
「shirokanipe ranran pishkan」〜銀のしずく降る降るまわりに〜
アイヌ語でも日本語でも神秘的な響きを奏でる上の一編は、特に有名。
美しい詩世界から、アイヌ民族の自然信仰の一部に触れられる。

著者、知里幸恵はアイヌ女性。
惜しいことにこの聡明なアイヌ女性は、生来心臓に持病を抱えており、
この神謡集一冊だけを残し、19歳の若さで他界した。死の間際まで原稿に向かっていたという。
(彼女の人生については、藤本英夫氏の「銀のしずく降る降るまわりに」
また「知里幸恵遺稿 銀のしずく」に詳しい)

この本は、知里幸恵が19年の生涯全てをかけて送り出した、アイヌ民族の蒸留の一滴といえるのではないか。
「シサム」として、是非手にとって欲しい一冊。

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