おどろきの中国 (講談社現代新書) の感想

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参照データ

タイトルおどろきの中国 (講談社現代新書)
発売日販売日未定
製作者橋爪 大三郎
販売元講談社
JANコード9784062881821
カテゴリ » ジャンル別 » 社会・政治 » 外交・国際関係

購入者の感想

隣の大国に対するアプローチは様々あると思いますが、一方的に悪口を書かずに社会科学的な観点から鼎談の形で(とは言っても大澤、宮台両氏の疑問に橋爪氏が答える形が多かったですが)提供しようとした点は興味深かったと思います。

西洋的な(それを敷衍した日本的な)アプローチと異なる中国的な「天」と「天子」による正当性の概念というのは他の学者からも提供されていることですが、毛沢東の文化大革命により「徳を失った天子は放伐される」という伝統的な考え方が破壊され、大躍進や文革の犠牲にもかかわらず毛沢東が「天子」の位置に居座り続けている、という分析は説得力があったと思います。

ただ、中国近代史や日中関係に議論が進んだ途端、論旨が迷走した観は否めませんでした。特に橋爪氏がアメリカの学者に「中国の経済発展はアメリカの承認と中国人自身の努力にある」旨を語ったところ、「日本の貢献を忘れている」旨を指摘された点を自ら語っていた点は正直どうかと思います。どうも、日本の欠点を指摘したいあまりポジティブな影響を無視する評論家の悪癖が出た印象です。

また、日本が欧米に対する中国の窓口を果たすべきという主張については、天安門事件で孤立した中国に対し、外交面では天皇陛下の訪中を実現させ、経済面では積極的に他国も含めた投資プロジェクトを立ち上げる等欧米と中国をつなぐ「窓口」役を果たしていたにもかかわらず、最終的に2005年の反日暴動に行き着いた90年代〜2000年代前半の教訓を見落としているのではないでしょうか。

日本人が中国人を理解する必要があるように、中国人に日本人を理解してもらうにはどのようなアプローチが必要かという点も議論をお願いしたかったと思います。現在の中国及び中国人の高圧的な態度の一因は近隣諸国や国内の少数民族への他者理解及び想像力の欠落にあるのですから。

有名なご三人による中国をめぐる鼎談。部分的にはなるほどと思うところもあれど、総じて良いとは思われない。(1)タイトルに相違して、ここには「おどろきの中国」はない。誰もが普通に知っている歴史や政治・経済の事柄が前提になっていて、初めて知ったという驚きはないし、感心するような驚きもない。(2)対象に肉薄して本質に切り込む姿勢がない。中国に関する知識や情報を、自分たちの専門である社会学の概念で解釈してみようとしたり解説してみたり、要は欧米流のものさしで中国を測って自分たちに合わせようとしているのではないか。対象である中国それ自身の持つ論理をそれ自身の言葉で表現・分析していない憾みが残ります。(3)特に第1部と第2部に顕著だが、中国研究の業績をこの人たちはよく読んでいないのではないか。歴史研究についても、普通に概説や一般書に見えるだけでも著者たちの疑問は答えが出ていますぜ。64ページからの科挙については、山川のブックレットにある平田茂樹の『科挙と官僚制』に充分な情報と適切な解説があり、官僚の生態や官民の問題は竹内康浩『「生き方」の中国史』(岩波)に書かれてある。儒教と政治については渡辺義浩や小島毅の一連の著作に余すところなく述べられている(それらの書物の内容こそ「おどろきの中国」というにふさわしい)。清末から民国にかけての政治思想などについては横山宏章のいくつかの新書が衝撃的。私もろくに読んでませんけど、いくらなんでもこの三人は最近の中国史や中国思想の業績に疎いんじゃないですかねぇ。なお、92ページで持ち上げている白川静の文字学も、一般書は多く出てますけど「想像の域を出ない」個人的見解として学会での評価は高くないようですよ。(4)第3部・第4部は中国というよりもむしろ「日本論」であり、違和感を覚える。この本の趣旨は中国理解にあるのではないだろうか?ここだけやけに発言に歯切れがよく、著者たちの専門からは結局それが言いたいのねという感を強く受ける。以上の4点をとりあえず申しておきましょうか。鼎談という形式もあるのでしょうけれど、内容は雑駁で踏み込みが足らず、やはり外から中国を「撫でている」感が強いかなあ。

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