日本の思想 (岩波新書) の感想

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参照データ

タイトル日本の思想 (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者丸山 真男
販売元岩波書店
JANコード9784004120391
カテゴリ人文・思想 » 哲学・思想 » 東洋思想 » 東洋哲学入門

購入者の感想

 学生時代以来、30数年ぶりに読みましたが、内容に古さはなく、戦後の古典だと思いました。
 1部の「日本の思想」では、思想的座標軸のない日本の思想界が、理論信仰か実感信仰に二極化されてしまう病理を鋭く指摘します。
 2部の「近代日本の思想と文学」では、マルクス主義が日本の文学に与えた衝撃をたどり、文学主義か科学主義かといった不毛な二項対立を克服するための方向が探られています。
 3部の「「思想のあり方について」では、有名な「タコつぼ型」と「「ささら型」の比喩を用いて、近代日本の学問の受け入れ方が「タコつぼ型」にならざるを得なかった理由が分析されています。
 4部の「である」ことと「する」ことでは、近代社会が「である」社会から「する」社会の転換であったことを指摘したうえで、それが日本の現実においてどのような歪みが生じたかが述べられ、結論的には精神的貴族主義がラディカルな民主主義と結合する可能性に言及した印象的なことばで終わります。
 なお、初めて読まれるかたは、仲正昌樹氏の「日本の思想講義」を併読されることをお勧めします。視野を現代思想にまで広げながら、分かりやすく本書が解説されています。

既に多くのレビューが書かれているので、ここでは2点だけ雑感めいたことを。

1点目は、昔の新書は難しかったのだなぁということ。最近の新書はすっかり雑誌化していて、平易な反面で内容の薄いものが大半だが、本書、特に第1章と第2章は、その抽象度の高さと論理展開の複雑さという点で、手加減無しに難解である。一読了解できる人がいるとすれば、相当頭のいい人に違いない(私には到底ムリ)。1961年の初版以来、80刷を超えるロングセラーとなった本書だが、読者のうち少なくない部分は、実は第3章と第4章の講演部分しか理解していないのではないかという疑いを抱かずにはいられない。

2点目は、丸山真男の釣り師性ということ。「あとがき」に書いてあるが、本書第1章の一部記述は、当時の文学者の神経をひどく刺激したらしい。というのも、(おそらくは東大を念頭に置いて)文学部出身者の法学部出身者(典型的には官僚)への劣等感が、日本文学の「抽象的・概念的なものへの生理的嫌悪」を生んでいると論じたからである。本書に限らず、丸山の著書には他人のコンプレックスを逆撫でするような記述が最低一箇所は含まれている。洞察力鋭敏な丸山が気付かずやっているとは到底思えないので、きっとわざとなのだろう。いや、間違いなくわざとだと思う。

 困ったことに、丸山真男はいま読んでもぜんぜん「古くない」。これは丸山真男のもちろん「エライ」あるいは「正しい」ところだが、「不幸」あるいは「無益」なところでもある。
 
 丸山真男は「日本(の知識)人はバカだ。そのバカのパターンはこれとこれとこれだ」というのを、実にわかりやすく書いたのだが(もちろん彼はそういうバカはもうやめにしようとして書いたのだ)、いろんな人が、つまり日本の知識人たちは、「バカとはなんだ、バカとは」と、この丸山真男をいろいろと批判した。もちろん、「当たってる」ことを「わかりやすく」書いたので、随分と賛同者やファンやエピゴーネンも現れた。
 
 「不幸」あるいは「無益」というのは、丸山真男がそう言ったのはずっと昔のことなのに(この新書は1961年に出てる。しかも丸山真男が直接扱ってるのは日本の戦前の思想家たちである)、あいかわらず日本(の知識)人はバカだからである。しかも、その「バカのパターン」は、あいかわらず丸山真男が『日本の思想』に書いたもので出尽くしてる。だからこの本は、「日本の思想」と名乗る権利が(今でも)あるのである。
 
 丸山真男が書いたのは未だに「当たっている」。けれど逆に言えばそれは、せっかく(人に恨まれるくらい本当のことを)書いたのに、何の役にも立たなかったということでもある。
 
 丸山真男に向けられたたくさんの反論も、のこらずその「バカのパターン」を繰り返していた。それどころか、丸山真男に向けられたたくさんの賛同も、のこらずその「バカのパターン」を繰り返していたのである。0

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