楽しいね の感想

ロックと喜劇をここまで匠に高めている音楽家は久しぶりで嬉しいです。
アルバムの音源を聞いてみました。素人にもわかりやすい表現の中に見え隠れする職人芸に感服しました。素直にロックなYOU－Tシャツを着ちゃいました。

突き抜けるようにポップで、そのくせ暗い感情がそのメロディに、歌詞の一節にべったりと塗り込められた楽曲群を、エフェクターで奇妙に捻じ曲げられたコーラスが覆い尽くす。
前作の爽やかなギターロック路線の影はここにはない。

収録された曲のほとんどはVo&Guiのの子によるデモ音源が以前から公開されていて、熱心なファンはそれを手持ちの音楽機器に取り込んで既に何度も聴いている。
しかし、たとえそうして聴き慣れた楽曲であったとしても、このアルバムに収められたこの順番、このアレンジで聴いたときには、まさにばらばらの点が一本の線で繋がるような感覚が味わえるはずだ。

「仲間を探したい」と不安な心情を吐露して見せながらも、「友達なんかいらない死ね」と学校での見せかけだけの友達付き合いの虚しさにブチ切れ。
声によるシューゲイザーとでも言いたくなる、アルバム中最も美しい「コンクリートの向こう側へ」。
ロマンチックな「ベルセウスの空」からミステリアスな甘美さを持つ「雨宮せつな」。

そして遠大なサウンドスケープの果てに待つのは「2年後に2年前の僕らを笑い飛ばせるように」と歌う、アルバム中数少ないギターロックの「2年」。
前身バンド時代の曲だが、まさに今、このアルバムに収録される為に書かれたように完璧な位置にはまっている。

2年前、神聖かまってちゃんはこの『楽しいね』の正反対のタイトルを冠した『つまんね』でメジャーシーンに打って出た。
の子のトラウマと激烈な世界観を高密度で写し出した強力なアルバム。
多くのファンがシーンの転覆を夢見たが、しかしセールスは奮わず。

それから2年が経った。
今、当時同様素晴らしい楽曲を当時以上に素晴らしいアレンジ力で作り上げたこのアルバムを携えた彼らは、「2年前の僕らを笑い飛ばせる」だけの資格と説得力とを充分に持っている。
これはそんな軽やかな哄笑が似合うとても美しいアルバムだ。

そして、この2年後の彼らだって、今よりももっと素晴らしいに違いないのだ。