光あるうち光の中を歩め (新潮文庫) の感想
参照データ
タイトル | 光あるうち光の中を歩め (新潮文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | トルストイ |
販売元 | 新潮社 |
JANコード | 9784102060124 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » ロシア文学 |
購入者の感想
ローマ帝国の時代、豊かな生活を送りながら幸せを感じられないユリウスとキリスト教の世界で幸福を感じながら生きるパンフィリウス、そしてキリスト教世界の現実を離れて理想を追う人々を批判する医師。ユリウスとパンフィリウス、医師との対話で、キリスト教世界の思想(すべての物を皆に平等に分け与えよ、暴力に対して暴力や刑罰で対処するのは間違っているなど、道徳的には正しいと誰しも思うが実行するとなると、自らの生活ひいては社会生活が成り立たなくなるというような話)が展開される。キリスト教の考え方を批判する医師の言葉が、なんだかすごく説得力があり、無宗教の日本人からしたら腑に落ちるというか、今の自分はその考えに最も近いように思う。唯、パンフィリウスの語る理想や考え方も今の社会には必要であると強く思った。そんなことをわかりやすく考えさせてくれるこの本は、今の時代にもっと読まれていいと思う。特に自分の考え方に固執しがちな人や政治家の方々に。それにしてもトルストイが理想とする世界は、もしかしたら昔の日本が最も近づいていたのではないか?江戸時代の庶民の生活から、一億総中流時代の昭和までは・・・。平成になってから推進されたグローバリズムの世界は、ユリウスが浸りきった悪しきローマ帝国時代のようにも感じてしまいます。キリスト教世界を賛美するのではなく、反対意見もきちんと公平に取り上げて問題提起しているところ、読者にいろいろ考えさせるところ、普遍性のある作品だと思います。
ほとんどの人間は死ぬときに後悔するといいます。何を後悔するのか?『あのときあれをやっていれば、、、、』人間は、すなわち、”やったことよりもやらなかったことを悔いる”のだそうです。そして今際のきわにこれを大いに嘆き、そして後悔の念むなしく死んでいくのでした。トルストイの本著を拝読したとき、私はそれをそのままに実感しました。これまでのわが40年の人生を振り返るとき、トルストイの言葉の真実さがしみじみとよく思念されます。モームの人間の絆、ヘッセのクヌルプ&シッダールタ、そして釈尊の原始仏教諸典とともに、私は”人生における苦”を感じてやまない人々には、この御著をぜひ読んでほしい一冊です。