訪日観光の教科書 の感想

観光立国や訪日外国人と言う言葉を聞かない日がない程、訪日観光に対する社会の関心は高まっている。しかし、訪日観光の本質について理解している人はどれほどいるだろうか。真に時機を得て世に出た「訪日観光の教科書」。本書はそんな訪日観光の本質に迫る良書と言える。

訪日観光について体系的に解説した日本で初めての書籍であり、まさに待望の書と言えるが、本書の価値はそれにとどまるものではない。訪日観光と言う社会現象が、何故今盛り上がりを見せているのか、訪日観光に参加する外国人が何を求め、何を実際しているのか、そこで何に満足し、何に不満を覚えているのか、どうしたらよりより訪日観光を実現できるのか、など、訪日観光に直接携わるビジネスや行政の実務家が知るべき事実と的確な分析に溢れている。

訪日観光を知り尽くした研究者と実務家の2人が共著者としてタッグを組んでいるからであろうが、その内容は最新の学術理論が平易に解説されると共に多くの事例に満ち、豊富な写真や図表などと共に読者を飽きさせない。全くストレスを感じずに読み進む事が出来る書であり、本書のタイトルである「教科書」としては他書に類を見ない読みやすさと言える。

本書の素晴らしさは、内容の質の高さと読みやすさを両立しているところにもあり、著者の並々ならぬ意欲と努力がうかがえる。そして本書を読み終わった時に読者が感じるであろう著者のメッセージ、それこそ本書の真骨頂ではないだろうか。

訪日観光は日本が外国人をお客さまとして受け入れるところにその本質があり、狭義の旅行業者、観光業者だけでなく、日本全国の街の小売店、食堂、交通機関、はては一般市民ひとりひとりが、訪日観光のプレイヤーとして期待される。当然多くの摩擦や混乱が起こるだろう。しかし、それを乗り越える事こそ、グローバル化する社会に生きると言う事なのだと、本書から学ぶ事が出来た。

本書は訪日観光に直接携わるビジネス・行政の実務家だけでなく、訪日観光に関心を持ち勉強をしている学生さん、そしてそれだけでなく、訪日観光やグローバル化と言う現象に少しでも関心のある全ての人に本で欲しい、必読の書である。