密会 (新潮文庫) の感想

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タイトル密会 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者安部 公房
販売元新潮社
JANコード9784101121178
カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

購入者の感想

久々に読んだ安部公房であるが、正直非常に困惑した。
救急車で連れ去られた妻を捜しに病院へ行き、異常な病院関係者と入院中の体の不自由な少女との間で繰り広げられる物語である。
本書では、あがいても結局は同じところをぐるぐる回っている閉塞感を描いているような気がする。これは我々の生活でも同様であり、読者に対して現実を再認識させようとしているのではないだろうか。そういう意味では、非常に現実的で悲壮的な作品と思う。

 安部公房は読者を異空間に連れ去る。別に幻想の世界を描いているわけでは何のに異空間なのである。一度読み始めると止まらなくなるのであることが多々あるが、この「密会」もそのうちのひとつ。妻がいきなり救急車で連れ去られたり、下半身が馬の男が現れたり、骨が溶けていく少女に惚れ込んだり、日常あり得ないような出来事に遭遇しながら、最後に出会うのは真の絶望?
 とにかく、この小説のさまざまな仕掛けに魅了される私(あなた?)がいるのは間違いない事実。あなたは医者ですか。それとも患者?

失踪した妻を捜し求める男の前には、卑猥で狂気にみちた医者や看護婦、患者などの立場の異なる病院の構成員たちが現れる。猜疑、嫉妬などの生々しい感情が錯綜し、苛烈で感傷的な終局へと迷路は突き進む。

文学史的な低評価なんか気にするな。「現代の人間の疎外を描いた」との作者の言葉なんて無視していい。
この小説を正当に評価したのは、自分と同じ匂いを感じとって絶賛した筒井康隆と、「あのアベまでもがこんなエロ小説を書くなんて日本は狂っている」と評した海外プレスだけだ。
これはめちゃくちゃで、ドタバタで、猥雑で、饒舌で、そしてクールな「読むマンガ」なんだ。

マトモな登場人物はひとりもいない。最初はマトモだった主人公も、小悪魔的フェロモンを放ちまくる幼女との出会いからおかしくなっていく。強いて言えば、少しはマシなのは副医院長の妻くらい。ほとんど登場機会がない彼女以外は全員完全に狂っている。
そして彼らは読者の生半可な感情移入をきっぱりと拒否する。「いるよなあ、こんなヤツ」そんなヤツはここには一切登場しない。極端で、エキセントリックで、ただ自己の欲望だけには忠実な登場人物たち。彼らは、読者の安易な予想を常に裏切りつづけながら終幕へと驀進する。
なのにこの面白さはなんなんだ?「なんなんだこれ?」と思いつつページをめくる手が止まらないのはなぜだ?

この小説の本当の主人公は、狂った登場人物たちでも、パースの歪んだ舞台設定でも、そしてセックスでもない。この小説の最初から最後まで、時には背景として、時には前景に踊り出つつ、常に支配しつづけるのは、「ゴミ(ガジェット)」なのだ。

打ち捨てられ無視されさげすまれ意識の外に押し出され、それでもいつのまにか侵蝕してくるもの。
前作『箱男』でも安部はゴミをサブテーマのひとつに選んだ。エッセー集『笑う月』では、ゴミ偏愛をこっそりと吐露した。『密会』はゴミをメインテーマに据えた小説なのだ。そこでは安部の看板である「不条理」さえもがゴミ(ガジェット)として、半ばセルフパロディとして取り扱われていることに、気付く読者もいるかもしれない。

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