待つ力 (扶桑社新書) の感想

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参照データ

タイトル待つ力 (扶桑社新書)
発売日販売日未定
製作者春日 武彦
販売元扶桑社
JANコード9784594066154
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 著者別 » か行の著者

購入者の感想

「自己愛な人たち」や「はじめての精神科」などの好著で知られる春日氏ですが、
この本は正直言ってハズレかな?といった印象です。
というか、読んでガッカリさせられる内容でした・・・。

全体的に他人を蔑にしている品の無い場面が散逸しています。

例えば冒頭の著者の体験談で、百貨店の買い物でレジに並んでいた時のこと、
前側の女性が使おうと思っていたカードを間違えてしまい、店員さんには謝っても、
散々待たされた後列の我々には一つも詫びがないのはどういうことだ、
こういう女は育ちが悪い、おまけに容姿も体型も河馬(カバ)みたいだったとは何事か・・・。

たかがこれくらいの些末なことで、そこまで言わなくてもいいじゃないかと思ってしまいました。

その他にも、小学校の時、金持ちで見栄張りだった同級生が醜態をさらしたのを目にして、
「ざまあみろ」と思っただの、アメリカの女はルックスだけでなく財力がある男を求めるから、
態度がでかい、嫌な国だの、著者自身の憂さ晴らしさで書いたと思われる箇所があまりにも多い。

おまけにこれらの体験談、本論とはそこまで関連性が無いのです・・・。
よって肝心な「待つ」という行為への精神的アプローチの内容がほとんど稀釈になっている感が否めません。

ただ一つだけ言えば、井上靖やモームの小説を引用して、「待つ」という行為を考察しているのは
これはまあ面白い試みだとは思いました。

もし、似たような内容の本を読みたいというのであれば、
鷲田清一さんの書いた『「待つ」ということ』(角川学芸出版)をお薦めします。

こっちの方が含蓄に富んでるし、新たな発見が多く、名著です。

本書では、「待つ」という人の営みについて考察されています。
待つということに付随するさまざまなイメージや精神現象を俯瞰しながら、
「待つ」という心構えを見つめ直し、腹に落とすための試論です。

「待つ」ことは、ある意味で妥協を前提とした行為でもあります。
しかし、春日氏は妥協について次のように述べておられます。

“妥協は敗北でもなければ誤魔化しでもなく、大人の智恵です。
とりあえずの着地点を見定めるだけのことであり、
あとは情勢の変化と時間の流れに沿いつつベターな地点を
求めていくといった極めて現実的な戦略です。”

不条理な状況において、とかく果敢なる闘争心が裏目に出ることがあります。
人間が宿命的に自覚している無力感、
自分の力だけではどうにもならないことばかりだという認識、
「待つ」というストレスフルな状態をどのように捉えていくか…

著者は、方法論ではなく心構えの問題だと喝破。
具体的な方法論において画期的なものがなくとも、
心構えを調整することで案外、受け入れがたい現実を乗り切れるものだと述べておられます。

エリザベス・キューブラー・ロスの「死の受容のプロセス」を援用しつつも、
「待だざるを得ない状況にある者」を分析するくだりは、精神科医の面目躍如といった観があります。

井上靖やサマセット・モームなどの文学作品からの引用も多く、
教養豊かな人柄が読む者の「こころ」を癒してくれる一冊でもありました。

「おわりに(補遺を兼ねた少々長い後書き)」において、
“率直に申しまして、予想外に書くのが難しかった。”と述懐されておられます。
それだけに読み応えのある考察に溢れた良書に仕上がっています。

「待つ」という絶望と希望が渾然一体となっている状態…
しかし、どうにもならない懸案事項に自ら着地点を見いだせる可能性、
嬉しい驚きをもたらしてくれる可能性が「待つ」ことには宿っています。

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