春雨物語 現代語訳付き (角川ソフィア文庫) の感想

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参照データ

タイトル春雨物語 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)
発売日販売日未定
製作者上田 秋成
販売元角川学芸出版
JANコード9784044011048
カテゴリ古典 » 日本の古典 » 近世文学 » その他の近世文学

購入者の感想

 原文と現代訳、必要最低限の解説と年表により構成。本書は完本が伝わっていないため、どの資料を原文とするかという点に論争がある。また古典・漢籍の引用やオマージュを駆使する秋成自身の性格から元ネタの解説を巡っても学術レベルでは色々と説があるが、本書はそういった解説を最低限まで省略している。この点で専門的な情報が欲しい読者の要求水準は満たさないかもしれないが、逆に「まずは話の筋を追いたい」という僕のような門外漢にはあっさり読みやすく纏まっているとも言える。

 内容的には作者壮年期の「雨月物語」が短編として練りつくされた構築性と典雅な文体を誇っていたのに対し、30年を経た晩年期に書かれた本書は歌論と物語が溶け合ったような、不思議な文章となっている。これを「ヘタウマ」と簡単に評することもできると思うが、和漢古典に関する博学と70歳を超えた作者の枯れた宗教観・人生観が混ざり合った各ストーリーからは、やはり尋常ではない達人の技がビンビン感じられる。不遇な人生を送った割に作者が信仰に懐疑的だったことが読み取れる各話からは、結局人の人生とは偶然により残酷に、また不可思議に決まってしまうものであり、「人の運不運は本人が天から享け得た福運次第」(p30、「天津処女」現代訳より)という達観が感じられる。例えば「宮木が塚」に描かれた遊女の無残な運命にも、また「樊かい(はんかい、変換不能)」のピカレスクぶりにも、登場人物本人達には全くコントロール出来ない運命の不思議さが描かれているが、この登場人物達の運命への流されぶりが本当に寒気がする程「リアル」だ。霊異譚である「雨月物語」とは違って、リアリズムの冷徹さが「怖さ」を醸し出しているというか。だけど、お話自体は単純で昔話的ですらあるというこの凄まじい完成度は、確かに芥川や谷崎が絶賛したというのも頷ける。

 上記の解説の薄さに比べ、内容とは全く関係ない表紙も気にはなるんだけど、まあ秋成の遺した話の内容自体が良いので、まずは星五つ付けましょう。

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