ワセダ三畳青春記 (集英社文庫) の感想

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タイトルワセダ三畳青春記 (集英社文庫)
発売日2014-04-17
製作者高野秀行
販売元集英社
JANコード登録されていません
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 日本のエッセー・随筆 » 近現代の作品

購入者の感想

 1989年から2000年まで東京・早稲田のボロアパート野々村荘で暮らした著者の摩訶不思議な青春記です。
 早稲田大学探検部員として世界の秘境に身を投じてきた著者ですが、一番の秘境は自らの下宿にあったと思わせる内容に驚きます。そこに住むのは個性的というよりは奇人と呼ぶべき面々ばかり。40歳の司法試験浪人生ケンゾウさん。奇妙な食べ物の腐臭をアパート中に垂れ流す通称・守銭奴。幻覚物質を著者と共に体を張って試してみる探検部の後輩イシカワ。大家さんは齢七十にして卓球で学生と互角に戦う剛の者。
 著者も風呂がわりに区立プールへ通い、俄か占い師になり、さらには流しの三味線引きを目指すなどハチャメチャな日々を送るのです。

 私も東京で家賃1万9千円/月の四畳半で80年代前半に学生生活を送った口です。西日が厳しく、夏ともなると机の引き出しにしまってあるだけの体温計の目盛りが40度を指してしまう下宿部屋でした。そこで私は友人と酒を酌み交わし、薄い壁を通して聞こえる両隣の住人の不思議な生活に目を丸くし、大家さんがかつて味わった姑による陰惨ないじめの体験談に耳を傾けたものです。他人との距離が今よりも近かった時代の良き思い出です。

 ボロアパートに愛着が湧くのは、住めば都の言葉通りだからなのか、それとも出来の悪い子ほど可愛く感じる愛情の類いなのか。いずれにしろ、著者ほどのスケールではないにしても、古びたアパートの小さな一室で何年か暮らした経験のある私には、この本に書かれている挿話の数々には甘酸っぱい懐かしさを感じるのです。

 著者が野々村荘を「卒業」するに至る経緯を綴った第六章は出色の出来です。
 大人になるとは企業に就職するというようなことではなく、このように安住の地に背を向けて新たな旅に出ることなのだ。そんな風に感じさせてくれる好編です。

 「その人」(265頁)の言葉通り、「粋な文章」で綴られた清々しい一冊です。

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