中世シチリア王国 (講談社現代新書) の感想

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参照データ

タイトル中世シチリア王国 (講談社現代新書)
発売日販売日未定
製作者高山 博
販売元講談社
JANコード9784061494701
カテゴリ歴史・地理 » 世界史 » ヨーロッパ史 » ヨーロッパ史一般

購入者の感想

日本では出版物が手薄な中世シチリア王国に関する、興味深い一冊。
図版も適切に使用して全体を理解しやすい構成は、著者の知性が感じられる。
本職である行政機構に関するくだりはさすがに硬質であるが、全体を通しては一般読者向けの理解しやすい文章である。

ラテン語文書に則って人名をラテン語で記載している点が(通用されているフランス語読みやイタリア語読みから直感的には理解しづらく)個人的には読みづらかったが、本書の評価を損なうものではない。
著者には、もっと多くの一般向け書籍を書いて欲しい。

この本で扱われている両シチリア王国は、世界史でも忘れた頃にやってくる厄介な存在でした。そうしたことを思い出しつつこの本を読んでいくと、12世紀当時のシチリアに、北仏ノルマンディー地方から南イタリアに傭兵としてやってきたノルマン人が次第に力をつけてついに王国を築くに至ったこと、そこにはラテン、ギリシャ、アラブの文化が混合した高度な文明と優れた行政組織があったこと、中世ヨーロッパがイスラムの科学を受け入れて発展していく上での窓口となったこと、現在のシチリアでも当時の文化遺産を見ることができること等々が書かれていました。ヨーロッパ中世は必ずしも暗い時代とはいえないようです。でも、それはもはや学界の定説だとか。初耳でした。

 1956年に生まれた中世イタリア史研究者が1999年に刊行した本。中世南イタリアは西欧カトリック、ギリシャ・東方正教、アラブ・イスラムという3つの文化圏の接点であり、小君主国が分立して争っていた。これらの勢力に傭兵として雇われたノルマン人たちは、アヴェルサとメルフィを拠点として次第に勢力を伸ばした。このうち後者の指導者に選ばれたのがオートヴィル家のロベルトゥス・グイスカルドゥスであり、彼はときに教皇や皇帝を敵に回しながら諸勢力を軍事力で制圧した。その弟ロゲリウス1世は、兄と協力しながらシチリアを制圧し、シチリアと南イタリアを支配する後のシチリア王国(1130年建国)の基礎を築いた。名目上教皇の封主権下にあるこの王国では、ノルマン人が世俗貴族をほぼ占める一方、よく整備された行政機構にギリシャ系(最高顧問団など)・イスラム系(最高顧問団・宮内官僚・土地文書管理官など)の高級官僚が多数登用され、イスラム教徒の国王軍も存在した。このように王国住民の構成から、国王は宗教的「寛容」政策を採用せざるを得ず、それを反映して王宮やラ・マルトラーナ教会等には文化混淆の形跡が見られる。ギリシャ語・アラビア語文献のラテン語訳も数多くなされ、ここは12世紀ルネサンスの拠点となった。まもなく初代国王の娘婿である神聖ローマ皇帝ヘンリクスが王位を継ぎ、その子フレデリクス2世が破門されたまま、第五回十字軍で武力を用いずイスラムとの外交交渉によってイェルサレムを回復したことは有名であるが、その背景にはこうした王国の現実が存在したのである。とはいえ、彼の代に異文化併存は崩壊し始め、シチリア王国の繁栄は徐々に失われていくことになる。以上のように、本書ではシチリア王国における異文化の共存と混淆のありようが、具体的かつ簡潔に論じられている。

 日本ではマイナーな(世界史Bでは名前程度は出てくるが)シチリア王国について、新書という手軽な形でその通史を描いた本である。

 地中海世界に長く続いたシチリア王国は、西欧、ビザンツ、イスラームの三つの文化圏の接点として融合文化を誇った。単に文化の通り道というわけではなく、それを融合して独自の高い文化を誇った。後の西欧の12世紀ルネサンス等もこの王国の影響を受けてのものである。つまり、中世から近世へと展開していく上でも世界史上の重要な役割を果たしたことになる。

 この知られざる王国の歴史をビビッドに伝えてくれる。

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