帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトル帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い
発売日販売日未定
製作者朴 裕河
販売元朝日新聞出版
JANコード9784022511737
カテゴリ歴史・地理 » 日本史 » 一般 » 日本史一般

購入者の感想

韓国で事実上の発禁となり、著者が韓国の検察から在宅起訴された本です。

・この本の長所は、
著者は韓国人ですが、慰安婦の強制連行という虚構は信じていません。また民間業者が慰安婦を集めていた実態や、業者から賃金が支払われていたことなど、慰安婦の事実を否定していません。要するに明らかな虚構を創作していません。韓国人が実名で書いた慰安婦の本では、これは非常に稀有なことです。慰安婦問題で韓国人が明らかな虚構を避けて書いたという点では、評価すべき本です。

著者は今まで無視されてきた慰安婦の証言にも光をあてています。(韓国では絶対に言えませんが、たぶん著者は慰安婦のうち誰が本物で誰が偽物かや、証言のうちどれが本物でどれが偽物かに薄々は気づいているのではないかと思います)

・この本の短所は
しかし、この本は、レトリックによって、虚構とならないスレスレのところまで日本側に慰安婦問題での譲歩を求める方向で書かれています。また、当時日本が植民地支配していたのだから、日本に責任があるという方向を強引に目指しています。

 だから例えば、朝鮮半島では、ほぼ朝鮮人の業者が売春婦や慰安婦を集めていて、彼らが時には詐欺的行為や強引なことをすることがあり、その場合、当時の総督府の警察が朝鮮人業者を摘発したり女性たちを救っていたという、当時の日常的な事実は伏せられています。それに、著者の興味は朝鮮半島なので、慰安婦の最大多数は日本人女性だったというようなところ、つまり慰安婦の全体像に対する視点も足りません。

また、当時は朝鮮半島や中国大陸等に無数の朝鮮人の売春婦と売春業者の店や売春窟があって、売春婦の借金をいろいろな口実で増やして死ぬまで奴隷的に働かせるところも多かったのです。しかし慰安所に登録した店は多少は軍の監督が入るので、2、3年で借金を返済して故郷に帰れる場合が多かったのです。そういうような朝鮮半島の売春の全体像も足りません。また何点か創作された資料や怪しい資料も使っていて、日本が悪いという方向への印象操作はかなりあります。ただ、それでも完全な創作は避けようとしています。

・総評

著者は韓国人だが、日本軍人が朝鮮半島の村でサーベルを振り回しながら韓国人の処女を誘拐して性奴隷にしたといった通俗的な慰安婦像には批判的である。朝鮮人を含む民間業者が詐欺的な手法を用いて慰安婦を集めていた実態や、一定の賃金が支払われていたことなど、韓国の挺身協などが触れたがらない都合の悪い事項も誠実に記している。

もっとも、彼女たちが自発的な売春婦であるといった右翼的な慰安婦像に同調するものでは全くなく、日本軍の関与の下で事実上拒否できない状況で売春を強要されていたことや、慰安婦の多くが朝鮮人だったことが朝鮮半島への帝国主義支配と無縁ではないことも論じている。

著者の引用する資料は1990年代以降に慰安婦問題がイデオロギー的に脚色される以前に書かれた兵士の手記なども多く、おそらくはかなり実態に即していると思う。

こうした実態認識の下で、日本政府が1965年の請求権協定で国家間賠償はすべて解決済みとの立場を堅持しつつも、日本の帝国主義支配に対する道義的な責任として河野談話を出し、アジア女性基金を立ち上げたことを、その問題点を指摘しつつも、一応は評価している。おそらくは、日本では和田春樹さんなどと一番立場が近いと思う。

おそらく韓国でこの著者のような見解が主流となれば、自民党や民主党の比較的リベラルな層とも十分に接点が出てくるだろうし、欧米的な価値基準でも十分に受け入れられると思う。しかし、残念ながら、日本会議系の超保守が政権中枢部にいる原状では、当分は望み薄だろう。

この本は研究者的な誠実さを感じさせる至極まっとうな本であり、あくまで基本線は反帝国主義、女性の人権擁護である。

著者は善意の人で、かつ日本軍慰安婦の問題を解決しようと模索している点に関しては敬意を払いたいのですが、本書においては資料(というか証言)の取り上げ方に問題を感じました。

ひとつは「挺対協」の「初代会長」だったユン・ジョンオクの証言(p134)です。ユンは1943年に梨花女子専門学校1年の時、地下の教室で挺身隊の召集状に指で判子を「押させ」られたとインタビューに答えていたようですが、実際には当該の学校は青年錬成指導員の養成所になっていたのであって、学生は挺身隊に召集される状況にはなかったといいます。ユンも現在では話を微調整して辻褄を合わせています。

もうひとつはp239にでてくるシム・ミジャです。彼女は『自分たちだけが「本当の被害者慰安婦」であり、「他の人は業者の元で従軍した慰安婦だと話している」』そうですが、シンは「挺対協」と激しく対立していただけでなく、日本での元慰安婦の裁判を支援している団体のメンバーからも、その証言内容がおかしいと思われています。

はっきり書くと、ユンは慰安婦問題の研究者ではなく扇動家で、シムは元慰安婦ではなく「悲劇のヒロインのなりすまし」です。あと千田夏光の著書についても、資料としてそのまま取り上げることには疑問を感じましたね。

韓国では元慰安婦を反日の手段に利用している勢力が目立つなか、著者のように第三の道をさぐる人がいることを日本人に知ってもらえるという点では、本書の日本での出版は有意義だったと思います。

批判的なことばかり書いてしまいましたが、慰安婦問題に関心のある方は読んでおくべき本かと。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い

アマゾンで購入する
朝日新聞出版から発売された朴 裕河の帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い(JAN:9784022511737)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.