イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言 (講談社+α新書) の感想

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タイトルイギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言 (講談社+α新書)
発売日販売日未定
製作者デービッド・アトキンソン
販売元講談社
JANコード9784062728706
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会学概論

購入者の感想

イギリス人の元経済アナリストにして、ひょんなことから日本の文化財修復会社の社長となった著者が、これまでの長きにわたる日本在住生活の中から発見した、多くの日本人の気づいていない日本の欠点、日本経済復活のための処方箋を提示する。

まずいきなり冒頭で筆者はぶちかます。いわく、「日本人は、戦後の奇跡的な経済成長を誇るが、戦前から日本は世界第6位の経済大国、先進国だったのであり、経済の急成長は、復興需要と人口がの爆発的増加による当然の結果であって、日本人が特別勤勉だったり、モノづくりに優れていたからではない」と。ある程度の先進国の間では、GDPは人口に比例するのは当たり前のことで、人口が日本の10倍の中国のGDPが日本より小さかったのが異常だったのである。実は評者も常々、同様に考えていたので、筆者の指摘には思わず膝を打った。だいたい、あの超大国アメリカと、足掛け4年間、ガチで戦争した国である。アメリカとの間で、歴史上唯一の、空母機動部隊同士の決戦を行ったのが戦前の我が国である。戦争によりインフラ等が破壊しつくされたとはいえ、戦前からの社会的基盤を土台にすれば、戦後、平和が訪れて人口が爆発的に増加したなら、高度経済成長は当然の結果だったと言えよう。

筆者の指摘は、日本の企業の生産性の低さなど、日本人には耳が痛いものばかりだが、いちいちもっともだ。中でも、「日本人の誇るおもてなしは、本当に客のことを考えているのか?」との指摘は、日本人一般の感覚とは正反対だが、これまたもっともだ。例えば、イタリアのサービス業。当然ながら日本のそれと比べるとはるかにいい加減だが、その分融通が利く、人間味のあるサービスが受けられるように思う。他方、日本人は、ものすごく礼儀正しく、きちっとしているが、マニュアルに縛られ、想定外のリクエストが来れば、顔を強張らせてしまう…。もちろん例外はあるだろうが、筆者の指摘はそれなりの真実を突いていると思う。

日本では、文化財の保存や修復に金をかけなさ過ぎる、との指摘も誠に耳が痛い限りだ。我が国が観光立国を目指すのであれば、明日からでも著者の提言に従い、せめて予算を倍増させるべきだ。

「日本が経済成長を遂げたのはざっくり言って人口が爆発的に増えたからだ」「日本が技術立国だというのには幻想がある」という主張をしているらしいので、何言ってんだこのガイジン人口増えても経済ガタガタの国なんていくらでもあるだろ、という思いをもちつつも、他所で読んだ著者の主張がなかなか痛快だったので本書を手に取り読了。

本書は、一般の日本人より日本文化に造詣が深いと思われる英国人が、彼の得意分野や経験したことの中から丁寧に、我々の課題を見つめなおさせてくれる。日本のサービスの多くは供給者側の都合がまず先に立っている、というのは、確かにその通り。多い。 また議論が理詰めではなく感情や妄想が入り込み本質を見失いがちとのこと。あるあるそういう話。思い当たる経験がいくつもある。 我々がただ欧米スタイルを取り入れるのではなく日本らしさを大切にするのは良いとしても、改善・改革の余地は まだ(x10) いくらでもあるのだ。

著者が伝統産業会社の社長であるから、観光立国でこうすべきとか、伝統産業に対して国の振興予算を増やすべき、というのはつまり自分のビジネスに結びつく我田引水でもあるワケしょ、と話半分に読んではみたが、内容はよく理解できる(そもそも人は誰でも得意分野についてしか中身のある提案などできないしね)。何より、それで日本全体のGDPが本当に8%も増えるなら大変素晴らしい。

昨今、イデオロギー的、あるいはディスカウントジャパンと呼ばれる日本への質の悪い批判を目にするアレルギー(不快は当然だけど)から、逆にいかに日本が良いかを力説される情報に心地よさを感じ、日本と国民のためにも質していくべき課題を、我慢して見つめる事が少なくなてしまっていないかと感じることがある。また近頃よく聞く、中国などが如何に酷くてそれに比べ日本が如何に良いかという情報(確かに多くの点でそれはその通りと思っているが)は最早どうでもよく、我々は下を見て安心するのはそろそろおしまいにして、もっと上を仰ぎ見て登ってゆくべきだろう。その点でも本書は日本への不当な批判ではなく改善・改革の提案であるので、内容のすべてに100%同意するわけではないが、★5は妥当と思う。

オックスフォード大学で日本学を専攻し、ゴールドマン・サックスでパートナーを勤めた後、文化財の補修を行なう小西美術工藝社の会長である著者が、25年に及ぶ日本での暮らしの中で感じ、キャリアを通じて分析してきた日本人の思考や経営、文化財保護や観光政策について分析は辛口ながらも、根底には日本への愛情と期待を持って提言しています。

多くの外国人は感じているであろう日本人や日本社会の問題や短所は、日本語で語られることが少ないために、なかなか一般の日本人の耳には届かないのではないでしょうか。仮に私たちの耳に届いたとしても、自らのおかしさや、弱点を聞かされるのは耳に痛いことです。

例えば滝川クリステルさんが訴えた「おもてなし」はもてなす側の都合が客の都合に優先していないかという指摘も、客のクレームを受け止めて自らの業務を改善するのではなく、理解が低い客を説得し、理解させることによってクレームしてくる客を減らすという企業側の都合による解決しか考えない銀行などの例によって、なるほどと気づかされるところがあります。

著者とは親しくさせていただいており、普段からこうした耳の痛い話をよく聞かされているのですが、しかし著者は、そうした問題点や短所を改善すれば、どれだけ良い結果がもたらされるか、例えば企業の経営は改善され、観光産業は活性化することによって、日本はもっと魅力的な国になるというメッセージをこそ伝えたいのだと思います。前向きな著者の思いが背景にあるがゆえに、イギリス人らしい皮肉をこめた日本の分析や批判もむしろ心強く、その提言に説得力と同時に今後への希望も感じられます。

銀行の不良債権や漆の技術など、それぞれのテーマは専門家が大著をまとめられるほどの広範な内容を含むものの、新書という誰でも手軽に読めるコンパクトなサイズにまとめてくれたことで、著者のメッセージが素直に伝わるのではないかと思います。実際に修復に携わった国宝のエピソードや歴史の紹介があれば、タイトルから想像される想像を満たしてくれたのではないかと思いますが、それは次作に期待。

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