ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトルベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
発売日2005-06-22
アーティストシェリング(ヘンリク)
販売元ユニバーサル ミュージック クラシック
JANコード4988005392992
Disc 1 :ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61 第1楽章 : Allegro ma non tropp
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61 第2楽章 : Larghetto
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61 第3楽章 : Rondo (Allegro)
ロマンス 第2番 ヘ長調 作品50
カテゴリミュージック » ジャンル別 » クラシック » 交響曲・管弦楽曲・協奏曲

購入者の感想

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのニ長調のヴァイオリン協奏曲と、ロマンスNo.2を、ヘンリク・シェリングのヴァイオリン独奏と、ハンス・シュミット=イッセルシュテットの指揮するロンドン交響楽団の伴奏で聴くアルバム。
シェリングは、ポーランド出身のヴァイオリニスト。ブロニスワフ・フーベルマンに才能を認められ、カール・フレッシュの下で学んだあと、パリ音楽院でガブリエル・ブイヨンに師事したり、ジャック・ティボーのレッスンを受けたりしていたという。演奏活動は1933年からはじめたというが、第二次世界大戦中はポーランド亡命政府の情報将校兼通訳として活動している。戦後は、ポーランド難民を受け入れてくれたメキシコに恩義を感じ、パリ在学中に知り合ったマヌエル・ポンセに要請されてメキシコ大学でヴァイオリンを教えるようになり、メキシコに帰化した。その後もヨーロッパとメキシコを行き来して演奏活動をしつつ教育活動に携わっていたが、1954年にアルトゥール・ルービンシュタインの手引きでアメリカでも演奏するようになったという。
シュミット=イッセルシュテットは、ドイツの指揮者で、アルトゥール・ニキシュに憧れて独学で指揮法を習得したという。尤も、生地ベルリンやハイデルベルク、ミュンスターの音楽院でヴァイオリンや作曲を学び、ハインツ・ティーセンのベルリン大学楽団連盟のオーケストラのスウェーデン公演にコンサートマスターとして参加したり、ヴッパータール歌劇場のオーケストラでヴァイオリンを弾いたりして経験を積んでいる。ヴッパータール歌劇場の練習指揮者を指揮者としての出発点とし、ロストック、ダルムシュタットやハンブルクといったドイツ各地の歌劇場で指揮をして実績を重ねた。第二次世界大戦後は、ハンブルクの北西ドイツ放送交響楽団の創立指揮者となり、1971年に亡くなるまで、そのポストを温めた。

シェリングの芸風は、ブックレットの柴田龍一の指摘に拠れば「折り目正しく禁欲的な語り口と清楚で潤いのある歌い口」にその特徴があるという。シュミット=イッセルシュテットも、ことさらドラマティックに盛り上げることを好まない理知的で堅実な芸風の持ち主だったので、シェリングとの相性は良い。

個々の緻密な音の集まりが、スケールの大きな全体を構成している=
ベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲は、
このように弾くという”お手本”のような演奏です。
他の演奏家の演奏とは、明らかに一線を画す演奏です。
一聴の価値のあるCDです。

1992年の有名なライヴ録音。ギドン・クレーメルとニコラウス・アーノンクールという奇才のコンビ。当然ながら『何か』が起こった演奏である。

そもそもの話からしよう。ベートーヴェンはヴァイオリン協奏曲を1曲しか作曲しなかった。それはベートーヴェンがその1曲の完成度に完璧といえる自信を持っていたからだと思われる。だがベートーヴェンは自作のヴァイオリン協奏曲にカデンツァを書かなかった。奏者の仕事に残したのである。現在最もよく聴かれる「よく出来た」カデンツァはクライスラーのものである。しかし、ここで妙なスコアが残ることになる。自分のヴァイオリン協奏曲をいたく気に入ったベートーヴェンはこれを「ピアノ協奏曲」に編曲した。そして「ピアニスト」でもあったベートーヴェンはこちらにはカデンツァを遺した。つまりその部分は「奏者」としての仕事を後世に遺したのである。

クレーメルの発案は、このベートーヴェンが「ピアノのために」書いたカデンツァを「ヴァイオリン協奏曲」の演奏に用いてしまおうというものである。しかし、これをそのままヴァイオリンで弾く、というほど単純ではない。なんと、このクレーメル版のカデンツァ、いきなり「ピアノ」が登場する。ヴァイオリン協奏曲のカデンツァがピアノ!と驚いていると、こんどはそこにクレーメルがヴァイオリンで旋律を「どうだい」といった気配たっぷりに奏でる。そして、このピアノ版カデンツァではティンパニが活躍する(一説では戦争のイメージとも考えられている)。なので、いっときはピアノ、ティンパニ、ヴァイオリンが繰り広げるなんとも楽しげな世界となる。さらには第3楽章のカデンツァでも、またまたピアノが出てくる。

この演奏と録音をどう捕らえるかはもちろん聴く側の自由だけれど、私はとても楽しいと感じた。何もスコア通りにやるのが全てではない。かのベートーヴェン自身が「さらに美しいために破りえぬ規則は何一つない」と述べた革命家であったことを考えると、むしろ今の風潮はこのような試みを安易に咎め過ぎるくらいだと思う。だからこそ、クレーメルとアーノンクールという権威であり大家である二人がこのような試みをこの時代にやったことに大きな意味があると思う。

ハンス・シュミット=イッセルシュテット率いるロンドン交響楽団の高踏的な気品に満ちた、一糸乱れぬ雄弁なオーケストラ・パートに支えられてシェリングのソロが限りなく冴え渡る。楽器の音質を言葉で言い表すのは極めて難しいことだが、あえてシェリングのヴァイオリンの音色を表現するなら、それはやや硬質の磨き抜かれた透明感のある音で、また常に張り詰めた琴線のような緊張感を持っている。それ故に自然な感情をありのままに吐露する音楽にはそれほど効果的ではないかも知れないが、逆に純粋な音と音との力学で楽想を練り彫琢していく、いわゆる絶対音楽にはこの上なく適しているように思う。シェリングのごく初期の録音ではサロン風の軽妙洒脱な演奏が聴かれるが、この時期にはそうした聴き手に媚びるようなスタイルは影を潜め、決して逃げ道を探すことのない、ひたすら音楽の内部に食い込んで行こうとする強靭な意志が感じられる。

この曲の第1楽章の終わりに置かれたヨアヒムの壮大なカデンツァの完全五度の和音は完璧な純正調で鳴り響き、圧倒的な力強さと威厳を示している。私は過去にこのカデンツァをこれだけ巨大なスケールで弾き切った例を知らない。勿論カデンツァだけのことではなく、シェリングのベートーヴェンの解釈にはおよそ自己主張ということからは遥かに超越した、深く掘り下げた部分での作曲家との対話があり、孤高の美学がある。それがこうした絶対音楽に捧げられた彼の真の主張と言えるのではないだろうか。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

アマゾンで購入する
ユニバーサル ミュージック クラシックから発売されたシェリング(ヘンリク)のベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲(JAN:4988005392992)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.