福島原発で何が起こったか-政府事故調技術解説- (B&Tブックス) の感想

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タイトル福島原発で何が起こったか-政府事故調技術解説- (B&Tブックス)
発売日販売日未定
製作者淵上 正朗
販売元日刊工業新聞社
JANコード9784526069949
カテゴリ »  » ジャンル別 » ビジネス・経済

購入者の感想

以前に船橋洋一郎著の『カウントダウン・メルトダウン』を読んだとき、発電所の構造や事故のメカニズムに関する説明がほとんどなかったため、日本を代表するジャーナリストの著作とはいえ、フラストレーションを感じざるをえなかった。(おそらく、著者自身も、技術的にはよく理解できていなかったのだと思う。)

それと比較して、本書は、徹底された技術的説明により、多くの教訓を得ることができる。

本書の中で、私が重要と感じた骨子は、以下の2つ。

A) 大事故に至った原因
1) 2007年に起こった中越沖地震による柏崎刈羽原発の被害の影響から、日本の原発の安全対策は、構造強度確保などの地震対策が偏重され、津波への対応はあまり重視されていなかった。
福島第一原発自体も、建設時には丘陵の高さが約30mあったが、地震対策重視の観点から、強い地盤がある10mの高さまで土を削り取った。今回の事故では、その高さへ15mの津波が来た。

2) 福島第一発電所に設置されている非常用冷却装置は、もともと地震などにより通常時の冷却時用配管が破断し、冷却材が喪失する事故(LOCA)を想定したものだったが、今回の事故では、その主原因は電源喪失によるものだった。
関係者は、電源そのものはある程度冗長化(多重化)していたので、完全な電源喪失という事態は全く想定していなかったが、ほとんどの配電盤が地下1階に設置されていたため、電源機能は一部を除いてほぼ全滅状態となった。

3) 安全を監督する立場の原子力安全・保安院は、2002年の東電トラブル隠し問題を受けて、“ねじ一本一本”の材料強度を確認するような形式的な管理となり、東電側もその対応に追われるようになった。
もともと原発事故のように、数十年に一度しか起きない事故の危険源(ハザード)をぬけもれなく抽出することは難しい。あるべき姿としては、それまでに実施してきたリスク管理の前提を繰り返し見直すことが必要とされるが、上記のような管理体制では実現しようもなかった。

B) 各号機における事故の経緯

タイトルに「技術解説」とあるので、この本を買う人は福島原発で起きた技術的な内容に興味がある方だろうと思うが、値段も安く、200頁で要領よく書かれていて、分かりやすい。

福島1/2/3号機で作動した安全設備や、逃し安全弁の作動方法、ベントの仕組みなど、事故に関係した原発特有の設備についての図や解説が5章にあるのは親切である。福島1号機の水位計が「原子炉に水がある」と誤表示(誤作動)した理由についても、5章に解説されている。

1号機と3号機の水素爆発の違いについても、原子炉建屋の構造設計の違いから説明している(なぜ、設計を変えたのか、調べて欲しかった)。

事故直後に話題となった「ベントの遅れ」と「海水注入の躊躇による遅れ」については「現場の状況から、そういう事実はほぼ無い」としている。これは、当時の一般市民の認識と大いに違う点であるが、現場員の調査を基にした本書が正しいと考えられる。

1/2/3/4号機の非常用ディーゼル発電機(DG)は、共用プールに別置きされていた2台を除き、全てタービン建屋の地下に置かれていたために、津波で浸水したことは良く知られている。更に、原子炉側の配電盤も共用プールの配電盤も、地下に配置されていたため浸水し、DG電力が使用できなかった、とのことである。(DGの海水冷却系が津波で全滅したことも強調して欲しかった。)

国会事故調査委員会と一部のTVが取り上げた「1号機のDGは津波前に停止した」という認定について、詳しく書いている。これは地震で重要機器が損傷したのなら問題だからである。これについては、現場員の証言を掲載し「上記は不適切な認定」と記載している。

背景要因については、全電源喪失を考慮しなかった背景、福島沖に大津波が来ないとした背景、安全神話などが記載されており、これらは著者が最重要と考えたものなのであろう。

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