女性学/男性学 (ヒューマニティーズ) の感想

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参照データ

タイトル女性学/男性学 (ヒューマニティーズ)
発売日販売日未定
製作者千田 有紀
販売元岩波書店
JANコード9784000283267
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会学概論

購入者の感想

 「ジェンダー/フェミニズム業界には論文量産システムがあるらしい」と内田樹が揶揄しているが、実際その類の本は書店や図書館の棚にはち切れんばかりで、初学者は途方にくれる。
 本書は下は高校生も対象としているというが、著者はあえて「です・ます」を用いて学術書調にならないように腐心したと書いている。学問の水準を落とさずに判りやすさを心掛けるというのは並みの学者の出来ることではない。ジェンダーに興味を惹かれる方が初めに読む本としてお勧めできる良書である。
 書名について、著者は「女性を問い直すことはそのまま男性を問い直すことだから」という。しかし本書の大半を占めているのは女性学である。男性学という研究分野が緒に就いたばかりでもあるが、「女性」は「男性」の関係語であるから賢明な読者には違和感はないだろう。
 女性解放史をフランス革命にまで遡って記す。近代市民社会はここから始まり「人権宣言」と共に「女権宣言」も書かれたが、近代が出現させた「個人」は家族と関連した男性のみで、女性はその属人として家庭に閉じこめられたと書く。ここでは、後に第2波フェミニズムが発見した「家父長制」を指していることは明らかである。
 従って本書のページは、60年代に端を発した第2波フェミニズムに大きく割当てられる。だがこのフェミニズムなるもの、「フェミニズムズ」と複数形で表されるほどの百花繚乱的学説の乱立で、それらを単に並記している類書を幾ら読んでもその差異が理解できないのだが、本書ではそれぞれの学説が相互に関連づけられていて、その違いと経過が良く整理されていると感じる。

女性学の歴史と現在を実にコンパクトにまとめた入門書。著者の特技を活かし理論的な話が中心であるが、その理論の発達と共振しながら(あるいは理論に先立ち)展開してきた女性をめぐる社会変革の動きにもバランスよく言及している。いい本だと思う。
田中美津氏が種をまき井上輝子氏が開花させ上野千鶴子氏らが飛躍的に成長させた日本の女性学は、実質30年ほどの歴史しかないが、しかしその短い間に、性差をめぐる認識の根源的な問い直しや女性の社会進出の後押し、男女間の権力のあり方や、個々の女性の生き方の意味や価値について驚くほど多くの重大な見識を提供してきた。そして、「セクハラ」や「DV」の問題化といったかたちで、女性学的な知識は一般社会に普及し、世の中を一変させてきた。今後も変えていくだろう。
一方の男性学については、これに遅れて誕生したばかりでまだ蓄積も少なく、本書も終盤でごく簡単にまとめているだけである。つい先ごろ出版された『「男らしさ」の快楽』(勁草書房)などの秀作に予感されるように、これからさらなる発展が期待されてよい学問だが、しかし現在では基本的に、女性学(+ジェンダー論)の派生ジャンルに留まっているのだろう、という印象を強く受けた。

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