覘き小平次 角川文庫 の感想

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参照データ

タイトル覘き小平次 角川文庫
発売日2014-08-23
製作者京極 夏彦
販売元KADOKAWA / 角川書店
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カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

覘き小平次 角川文庫 とは

 『嗤う伊右衛門』で、斬新なお岩像を創出した京極夏彦が、ふたたび名作怪談を現代に蘇らせた意欲作。オリジナルは、1803年(享和3年)に出版された山東京伝の読本『復讐奇談安積沼』(ふくしゅうきだんあさかのぬま)である。1853年(嘉永6年)には、歌舞伎狂言作家、河竹黙阿弥による『怪談小幡小平次』として舞台化もされたこの物語は、幽霊しか演じることのできない役者が、自分を殺した男と、裏切った妻を祟り殺すという怪奇談である。

   一日中、押入れ棚に引きこもり、わずかの隙間から世間を覗く、売れない役者、小平次。妻のお塚は、一向にその不気味な性癖がおさまらぬ亭主に悪態をつく毎日である。そんなふたりのもとへ、小平次の友人で囃子方の安達多九郎が訪ねてくる。禰宜町の玉川座が、次回の狂言怪談の幽霊役に小平次を抜擢したという。一座の立女形、玉川歌仙の依頼を受け、奥州へと向かう小平次。しかしその興行の裏には、ある仕掛けが施されていた…。

   京極は、自身の著作『巷説百物語』に登場する又市や事触れの治平らを絡めながら、死霊が主役の怪談劇を、生者が主役の愛憎劇へと見事に変貌させている。小平次を嫌いながらも別れようとしないお塚、小平次を罠にはめる多九郎、小平次に父の屍を重ねる歌仙。本書は、死人のような小平次にいら立ち、自らの嫉妬、猜疑、憤怒を目の当たりにして人生を狂わせていく生者たちの物語である。彼らが小平次の屋敷で繰り広げる凄惨なラストシーンからは、血生臭い匂いとともに、やるせない哀しみが押し寄せてくる。(中島正敏)

購入者の感想

山東京伝の怪談話を主なベースとして、小股潜りの又吉、事触れの治平といった「巷説百物語」シリーズのレギュラーの企てた仕掛けの中で、人間の深層心理の闇を抉った怪談風心理小説。

小平次は稀有の幽霊役者である。それは彼が何もせず、唯そこに居るだけの空虚な存在だからである。小平次は何も語らず、何も騙らないので自分の世界を作れない。切ない存在である。彼の妻、お塚は自分で人生の道を踏み外した事を自覚しているため死を望んでいる。そのお塚を慈しみながら、押入れの隙間から覘く事しか出来ない小平次。その小平次を意識しながらも、殊更辛くあたって小平次を苦しめようとするお塚。切ない関係である。

この他、悪党が複数登場し、それらが不思議な因縁で結び付いている様は江戸時代の因果応報の思想が反映されているようである。彼等は、自分等が悪事を犯している事を自覚しているため、「ただそこに居る」小平次に底知れぬ恐怖を抱くのである。妖異譚に頼らず、人が人から受ける恐怖を描く作者の手腕を買いたい。

江戸時代の怪談をベースにしながら、現代にも通じる人間の深層心理を抉った傑作。

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