逃げる幻 (創元推理文庫) の感想
参照データ
タイトル | 逃げる幻 (創元推理文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | ヘレン・マクロイ |
販売元 | 東京創元社 |
JANコード | 9784488168094 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学 |
購入者の感想
第二次大戦直後のスコットランドはハイランド地方が舞台となるミステリ小説。オリジナルは1945年の発表である。
マクロイ作品は「幽霊の2/3」に続いて2作目の読了。
家出を繰り返す少年が荒野の真ん中で突然姿を消す人間消失事件が発端となる。ものがたりの前半は、なぜ少年は家出を繰り返すのか、そこに理由はあるのか、といったところに焦点がおかれる。探偵役と思われる米国人・ダンバー大尉は精神科医としての専門知識を活かしてこれに立ち向かうのだが・・・、再び起きる人間消失、そしてさらには殺人事件が勃発し・・・というストーリ展開である。
最終的には事件のカギともなるスコットランドの風習や歴史について、いちおう作中で簡単な説明が行われるのだが(米国で出版された作品ゆえ)、基礎知識がないとこれがなかなか難解で、まずそこのとっかかりで苦労した。また、戦後すぐという状況から作者と読者が共有していたであろう時代の雰囲気がよくわからないのも辛い。これらもあって、特に前半は読み進むのが少々苦しい状態が続いたのが本音。しかし殺人事件が勃発し、ダンバーの上官であるウィリングが登場するあたりから事態は俄然活気を帯びる。そしてラスト、周到に引かれた伏線が一気に回収され、おぅそう来たか!と膝を打つ謎解きで物語は急転直下、幕を降ろすのである。
「読者への挑戦」がないのが不思議なくらい、謎解きのヒントは読者の目の前にいくつも並べられている。
いや、なかなか楽しめました。
マクロイ作品は「幽霊の2/3」に続いて2作目の読了。
家出を繰り返す少年が荒野の真ん中で突然姿を消す人間消失事件が発端となる。ものがたりの前半は、なぜ少年は家出を繰り返すのか、そこに理由はあるのか、といったところに焦点がおかれる。探偵役と思われる米国人・ダンバー大尉は精神科医としての専門知識を活かしてこれに立ち向かうのだが・・・、再び起きる人間消失、そしてさらには殺人事件が勃発し・・・というストーリ展開である。
最終的には事件のカギともなるスコットランドの風習や歴史について、いちおう作中で簡単な説明が行われるのだが(米国で出版された作品ゆえ)、基礎知識がないとこれがなかなか難解で、まずそこのとっかかりで苦労した。また、戦後すぐという状況から作者と読者が共有していたであろう時代の雰囲気がよくわからないのも辛い。これらもあって、特に前半は読み進むのが少々苦しい状態が続いたのが本音。しかし殺人事件が勃発し、ダンバーの上官であるウィリングが登場するあたりから事態は俄然活気を帯びる。そしてラスト、周到に引かれた伏線が一気に回収され、おぅそう来たか!と膝を打つ謎解きで物語は急転直下、幕を降ろすのである。
「読者への挑戦」がないのが不思議なくらい、謎解きのヒントは読者の目の前にいくつも並べられている。
いや、なかなか楽しめました。
原題 The One That Got Away (原著1945年刊行)
出来れば予備知識無しで読む事をお奨めしたい。悠然とした冒頭から読者の予想を外し、それを上回るスリリングなプロットの傑作であり、ことに終盤の怒涛の如き展開に心地よく身を委ねるのは快感だ。
スコットランド、ハイランドの荒涼たる原野の描写がもたらす幻想性、そして第二次大戦の生々しい傷痕(作中言及される激しいナチズム批判は興味深い)という相反するような要素が絶妙に絡み合って物語に反映されている。
二大傑作『家蠅とカナリア』(1942年)と『暗い鏡の中に』(1950年)の狭間、マクロイ円熟期の筆の冴えを満喫出来る作品で、特に伏線の張り方はため息が出るほど巧妙。今まで未訳だったのは不審にしか思えない。
出来れば予備知識無しで読む事をお奨めしたい。悠然とした冒頭から読者の予想を外し、それを上回るスリリングなプロットの傑作であり、ことに終盤の怒涛の如き展開に心地よく身を委ねるのは快感だ。
スコットランド、ハイランドの荒涼たる原野の描写がもたらす幻想性、そして第二次大戦の生々しい傷痕(作中言及される激しいナチズム批判は興味深い)という相反するような要素が絶妙に絡み合って物語に反映されている。
二大傑作『家蠅とカナリア』(1942年)と『暗い鏡の中に』(1950年)の狭間、マクロイ円熟期の筆の冴えを満喫出来る作品で、特に伏線の張り方はため息が出るほど巧妙。今まで未訳だったのは不審にしか思えない。