映画 中村勘三郎 [DVD] の感想

歌舞伎役者であり稀代のエンタテイナーであった十八世中村勘三郎さん。勘三郎さんの余りに早過ぎた死から一年超が過ぎ、未だ信じたくないとの思いを抱くファンは多いことでしょう。私も、公開された折にどうしても足を向けられなかった一人です。勘三郎さんが出演なさった演目の映像は、山ほど繰り返し繰り返し観ているのに、ドキュメンタリーは、生身の勘三郎さんの姿をみることは堪えがたいことでした。そしてこの映画は、誰もいないところで、一人で観たかったですね。待った甲斐がありました。

毎日毎日繰り返される舞台の裏。一人の人間としての中村勘三郎さんの姿がそこにあります。肉体と精神を酷使して休むことなく考え続け、動き続け、演じ続け、疾走し続けた勘三郎さん。ひとつの舞台を作り上げることがかくも過酷なものであるとは、頭ではわかっていても、舞台のこちら側にいる我々に体験することはできません。一体どれほどの重責を負ってこられたのでしょう。刹那、消えてしまう瞬間のために命をかけた勘三郎さん。綺羅星の如く輝くアーティストのひとりになってしまわれました。勘三郎さんと皆さんが見せてくださった、あの数々の素晴らしい瞬間に、心がドキドキしたり、泣いたり、怒ったり、笑ったりした瞬間に、心から有難うと申し上げたいです。仕事が忙しくてしばらく歌舞伎から離れていた私を呼び戻してくださった（あるいは引きずり込んだ　笑）のも勘三郎さんと皆さんでした。毎月観に行く喜びを教えてくださったようなものですね。私の生活に歌舞伎がないなんてもはやありえないですよ、勘三郎さん！

なお、この映画には、中村座での仮名手本忠臣蔵など、映画・ＤＶＤ化されていない舞台の映像が含まれています。のどから手が出るほど欲しい（笑）。松竹さん、かなうならば、平成中村座全コレクションや、未映画化映像のＤＶＤ化をお願いします。