STUDIO MUMBAI : Praxis の感想

喩えていえば、もしも安藤忠雄さんが、金沢あたりで、
大工、左官、石工、鉄工、金工たち百人ほどの工房を作って、集団生活をしながら、
安藤さんはけっして図面を引かず、それぞれの担当者がおもいおもいにドロウィングし、
安藤さんの指揮の下、みんなでああでもないこうでもない、と合議制のなかで、
あれこれ建築を建ててゆく実践があったならばきっとわくわくするでしょう、
そういうプロジェクトがインドのムンバイで、
建築家ビジョイ・ジェイン　 Bijoy Jain　氏の手で生まれています。

日本の建築が伊勢神宮と法隆寺と大阪城の天守閣ばかりでなく、
磯崎新さんから伊東豊雄さん、瀬島和世さんまで多くの建築家が現代の建築を建てているように、
インドもまたタージマハルが鎮座ましましているばかりでなく、たくさんの現代建築家もまた活躍しています。
建築集団スタジオ・ムンバイのビジョイ・ジェイン氏もまたそのひとりながら、ただしそのスタンスは、やや独特。
かれはインドの大学で一人の師（グル）に教えを受け、伝統的な教育方法で建築を学び、
アメリカに渡って欧米式の建築理論を学びアメリカとイギリスで実務経験を積んだ後、
出身地のムンバイにてスタジオ・ムンバイを設立した人。
最初はジェイン氏が図面を引き、職人たちに渡し、建築にとりかかっていたものの、
しかしインド人の職人たちは、ジェイン氏を質問攻めにして、まったくもってまとまらない。
それどころかジェイン氏の引いた図面を隠したりさえする。
けっきょく、ジェインさんは降参し、わかった、じゃ、これからはみんなで建てよう、と決心しました。
いいえ、それはけっして降参ではなく、そこにはジェイン氏にはひそかな野心もまたひそんでいたに違いありません。

なるほどインド社会は、いまでこそ受験戦争を勝ち抜いてＩＴエリートになってゆく人たちも多く、
親の職業とは違う、自分の職業を自分で選ぶ人も増えてはいるものの、
もともとインドはカエルの子はカエルがあたりまえのギルド社会です。