陰陽師 蒼猴ノ巻 の感想

20年来飽きることなく愛読している連作短編集。
平安京を跋扈する魑魅魍魎と対峙する稀代の陰陽師安倍 晴明と、鬼の笛葉二の名手源博雅が織りなす、幽玄かつ 繊細な季節感を味わえる作品。
夢枕獏氏の仏教観とともに人の心の奥深くに迫る。
『鬼市』
この世ならぬもの達が開く市に紛れ込んだ貴人の話。
陰陽師らしい章。
『役君の橋』
役小角の逸話。
安倍晴明の師とされている賀茂忠行と、役小角の繋がり を紐解くことから始まり、晴明が役小角の残した一つの 痕跡を辿ってゆく。
『からくり道士』
虫愛づる姫露子と播磨の法師蘆屋道満、そして道満の友 人である道士が登場する。
露子姫の章は毎回何がしかの生物が扱われる。
今回は蝶。
胡蝶(蝶の別名)を「かはひらこ」と読むことを初めて知っ た。
終わりでほっこりできる章。
『蛇の道行』
男女の機微、輪廻転生の話。
陰陽師では人の持つ闇を『自然(じねん)のもの』として 扱うことが多い。
晴明はそれを法の力をもって調伏するということはしな い。
鬼は想いを叶え、そして、鬼も人も、どちらも哀しい結 末を迎える。
自然のものは晴明とてどうすることもかなわないのだ… 。
獏氏はこのような終わり方をする章をたびたび陰陽師の 中で描いているが、やはり何度読んでも考えさせられる 。
『月の路』
蝉丸法師が登場する。
琵琶湖の竹生島神社に祀られている弁才天をモチーフと した話。
蝉丸と、音楽神としての性格を持つようになった弁才天 を、本章の最後で上手く絡めている。
『蝦蟇念仏』
失せ物探しの話。
『月の路』の脇役である蝦蟇が再登場する。
蝦蟇の鳴き声を般若心経を誦す声に見立てている。
コミカル。
『仙桃奇譚』
蘆屋道満がメイン。
西王母の桃を探す仙女の話。
石猿(孫悟空)がチラリと顔を覗かせ、思わず興味をそそ られた。
『安達原』
安達原の鬼婆伝説、歌舞伎の安達原がモチーフか。

いつもと同じです。二人で酒飲んで依頼人のところへ、「ゆくか？」「ゆこう」となります。ただ渡辺真理さんにテーマをいただいた「仙桃奇譚」だけは少々趣が変わってますが・・・。この話、固有名詞こそ出てきませんが、あるスーパーサイヤ人が遠因となって進みます。平安時代の話にそんなことはないだろうと思われた方、是非ご一読を。思わずニヤリと・・・。それとそろそろ陰陽師長編も読みたいな。