思索の源泉としての鉄道 (講談社現代新書) の感想

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参照データ

タイトル思索の源泉としての鉄道 (講談社現代新書)
発売日販売日未定
製作者原 武史
販売元講談社
JANコード9784062882859
カテゴリジャンル別 » ビジネス・経済 » 産業研究 » 交通

購入者の感想

鉄分補給に必要!読むべし!
鉄分が必要なくても読むべき!かも?

同シリーズの第四弾です。ちょっと中だるみしていたのが本書ではもう一度生き生きとしてきたようです。東北から九州そして海外まで含めていろいろなトピックが取り上げられています。それにタイトルがいいですね。「思索の源泉」となるような様々なテーマが取り上げられており非常に楽しめました。「一枚の切符が覚醒させる記憶」に描かれた東浦和の情景の描写と分析なんか短いスペースにもかかわらず、素晴らしいですね。
もっとも鉄道愛が勝りすぎて、間宮海峡、宗谷海峡、玄界灘をも貫く海底トンネルの必要性と効用まで語られると、これはリアルであるべき可能性の技術を扱う政治学者の議論なのかという疑問まで引き起こしてしまいますが。また本書ではたびたびJR東日本が批判のやり玉に挙げられていますが、JR東日本という、すべての市場機会を「利潤の源泉」としてとらえる組織が、まったく著者の指摘(「よみがえる「つばめ」と「はと」」)や提言を無視しているというのは、おそらくそこには乗り越えることのできない「私」の領域での残酷な計算の見通しがあってのことなのでしょう。著者は、鉄道を日本における数少ない「公共性」の空間としてとらえていますが、鉄道という「公共性」の空間はもはや失われてしまったようです。首都圏での朝夕の満員電車、そしてそこではほぼ全員の乗客が個々に、スマートフォンというvirtualな空間に没入してしまっているという事実は、もはやpoint of no returnをこえてしまったようです。そして東京への人口の集中。新しいテクノロジーの下では、鉄道の前提となる社会が変化してしまったようです。
また、もはや存在しえないものを求めて、高度資本主義の下で人工的にrepackageされた「過去の旅」を求める行為自体も、「公共性」への模索とは関係のない、一部の高所得者しか手を出せないグロテスクな営為のかもしれません。ところで第6章の後半におさめられた3つの創作は、他の部分とは異なり新鮮な試みのようですけど、ちょっと原さんが手がけるには無理があるような。

バスも飛行機も分類上は「公共交通」なのだが、鉄道は他の乗り物にはない公共性を持つという主張が、著者の鉄道観の根底にある。
それがどの程度有効なのかどうかは置いておいて、たしかに鉄道しか持ち得ない公共性というテーマを源泉として湧き出る話題を政治、文学、歴史、ひいては国家という壮大なテーマにまで結びつけて論じられるのは、著者をおいて他にはいない。(鉄道愛ゆえの牽強付会という気がする文章もたまにあるけれど)
高千穂鉄道について語る章で、「地域社会の究極のよりどころが鉄道である」といい、JR大船渡線のBRTを(BRTはバスの形状なので)、座席の向きが前方に固定されているので乗客どうしの会話が少なく、三陸鉄道と比較して「一方には公共圏があるのに対して、他方にはそれがなきに等しい」といい、「人間をモノとして運ぶだけのJR東日本の姿勢対して、疑問を感ぜずにはいられなくなる」という。
さらに、NHKドラマ「あまちゃん」で夜行バスは映すのにJRの車両を映さないという演出には三陸の鉄道復旧を後回しにしている「JR東日本に対する批判が込められているといっても過言ではあるまい」とまで震災復興に対するJRの姿勢には懐疑的だ。

いずれにせよ、公共交通の中で鉄道こそが真の公共性を育む乗り物であり、鉄道を無くしてはならないのだという強い愛着が、著者に鉄道本を書かせる力の源泉に違いない。
「車中の時局談義」という文章では、橘孝三郎や丸山眞男が鉄道車中で耳にした雑談を書いた文章を取り上げ、「歴史という審判に照らし合わせたとき、勝っているのは橘孝三郎や丸山眞男ではなく、車中に乗り合わせた名もなき人々のほうなのである」と市民の洞察に軍配をあげる。
ハーバーマスがコーヒーハウスでの討論が公共性を形成したと論じたように、日本では「鉄道の車中が果たした公共的役割に注目する必要があるだろう」
「鉄道が消えることは、明治以来の「車中の時局談義」を生み出す空間そのものがなくなることなのだと思わずにはいられない」。

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