米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略 (講談社現代新書) の感想
参照データ
タイトル | 米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略 (講談社現代新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 布施 哲 |
販売元 | 講談社 |
JANコード | 9784062882774 |
カテゴリ | ジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 国際政治情勢 |
購入者の感想
日本の安全保障について中国と米国の軍事バランスの変化に注目しながら解説した本。今まで一般向けの新書でこのような内容のものはあまり無かったので、軍事に関心が高い人以外も手に取る一般の新書の形で本書が登場したことは意味があるように思われる。特に、中国のA2/D2戦略については詳しく書かれているし、サイバー戦の重要性についても大きく取り上げている。前半と中盤は納得しながら読んだ。ただ、特に後半部分を中心に、物足りないところや「?」なところもあった。
第一に、シミュレーションの内容に粗いところがある。わかりやすい例を挙げると、2014年の時点で既に30年経過しているF-15の旧型が16年後の2030年においても配備から30年のままという全く同じ機齢で登場して昔の装備から変わらない状態でやられるというおかしな話になっている。いくらなんでも、経過年数のつじつまあわせぐらいはきちんとすべきである。今後考えられる装備計画も十分に考慮されているとはいいがたく、2030年においては米海軍機動部隊の空母もジェラルド・R・フォード級が就航している筈だし、中国も実験色の強い遼寧だけでなく新型空母を実践配備している可能性が高いのだがそれはどこへ?とか、具体的にひとつひとつみていくと「?」なところが少なくない。要するに、2015年と2030年を想定した2つの異なるシンクタンクの情報を合わせて著者の意見を加えてまとめたのはいいが、整合性確認や全体的なつじつまあわせや最新情報による見直しが適切に行われていないように読める。また、電子戦やゲリラ戦で相手をかく乱した上で大量に準備してある長中短様々なミサイルをあらかじめ選んである多くの攻撃目標に対して誘導機能によって同時並行的に地空海のいろいろな手段で大規模先制攻撃で撃ちまくったらそれはこうなるだろうし、安全保障において最悪の事態を想定することは大切な上に中国の覇権主義は危険なのは確かなのだが、台湾は中国にとって公式上「国内」であり、この筋書きだと「内戦」の位置づけである戦いにおいていきなり外国を直接的かつ大々的に先制攻撃するというおかしなことになってしまう。もう少しシナリオにひとひねり必要だろう。それから、このシミュレーションでは、先制攻撃に続く侵略占領のための陸上兵力の投入作戦の段階については書かれていない。
第一に、シミュレーションの内容に粗いところがある。わかりやすい例を挙げると、2014年の時点で既に30年経過しているF-15の旧型が16年後の2030年においても配備から30年のままという全く同じ機齢で登場して昔の装備から変わらない状態でやられるというおかしな話になっている。いくらなんでも、経過年数のつじつまあわせぐらいはきちんとすべきである。今後考えられる装備計画も十分に考慮されているとはいいがたく、2030年においては米海軍機動部隊の空母もジェラルド・R・フォード級が就航している筈だし、中国も実験色の強い遼寧だけでなく新型空母を実践配備している可能性が高いのだがそれはどこへ?とか、具体的にひとつひとつみていくと「?」なところが少なくない。要するに、2015年と2030年を想定した2つの異なるシンクタンクの情報を合わせて著者の意見を加えてまとめたのはいいが、整合性確認や全体的なつじつまあわせや最新情報による見直しが適切に行われていないように読める。また、電子戦やゲリラ戦で相手をかく乱した上で大量に準備してある長中短様々なミサイルをあらかじめ選んである多くの攻撃目標に対して誘導機能によって同時並行的に地空海のいろいろな手段で大規模先制攻撃で撃ちまくったらそれはこうなるだろうし、安全保障において最悪の事態を想定することは大切な上に中国の覇権主義は危険なのは確かなのだが、台湾は中国にとって公式上「国内」であり、この筋書きだと「内戦」の位置づけである戦いにおいていきなり外国を直接的かつ大々的に先制攻撃するというおかしなことになってしまう。もう少しシナリオにひとひねり必要だろう。それから、このシミュレーションでは、先制攻撃に続く侵略占領のための陸上兵力の投入作戦の段階については書かれていない。
中国海空軍の対米戦略と米国の対応を書いた軍事戦略分析。軍事研究で著名な米シンクタンク・ランド研究所のシミュレーションに基づいている本書は「中国海軍=烏合の衆」論を否定する。人民解放軍の、ミサイル飽和攻撃を軸にしたアクセス阻止・領域拒否(A2AD)戦略はかなり進化しており、対艦攻撃では日米に勝る戦力を整えつつあるという。対潜戦で圧倒しているため、海空戦は依然として日米が優位にあるが、戦力差は急速に詰まりつつあるという。
注目したのは、今も昔も変わらない中国の波状攻撃だ。米国は空母を主力に海空の優勢を取りに行くのが基本戦術である。空母にまともにぶつかれば中国は秒殺だ。そこで、中国本土から対艦弾道ミサイルを、待ち伏せしている潜水艦などから巡航ミサイルも空母に向けて大量に打ち込む。1発かすりでもすれば、ハイテクの塊である戦闘機は離着艦できなくなるし、当たらなくても、米空母がミサイル迎撃に追われて第一列島線内に入るのに時間を要すれば艦艇勝負になり、勝負は五分に持ち込める。空母は数兆円、ミサイルは1発1億円。費用対効果に優れていて、国力に劣る中国に適した戦術だ。
米中衝突では自衛隊の関与が不可欠だとも指摘する。米国のシミュレーションでは、先制攻撃直後の紛争初期には米軍が分散退避する。米軍が立て直す間、海自潜水艦が第一列島線で中国艦艇を監視するとともに、イージス艦が弾道ミサイル防衛、護衛艦が空母の護衛に駆り出される。空自も対空ミサイル網を第一列島線上に作ることを求められる。言葉は悪いが、解放軍がミサイルを撃ち尽くすまでの標的か時間稼ぎの役。しかし、米軍の対中作戦は、自衛隊なしには成り立たないとのことだ。
ネットワーク化で、戦闘機が戦域全ての情報を共有する時代だが、自衛隊の戦闘機はいまだ進んでおらず、ネットワーク戦を前提とする現代の航空戦に対応できない可能性がある。著者は、予算を陸から海空にシフトすることを提案している。軍事戦略の本は軍事アナリストや元軍人が書くことが多く、そうした本の多くは兵器スペックなどマニアックな点にこだわっていて非常にわかりにくい。だが、本書はジャーナリストとして、情報を一度咀嚼した上で読者に提示し、しっかりした主張もある。今後の米中の戦略を考える上で、読む価値のある本だと思う。
注目したのは、今も昔も変わらない中国の波状攻撃だ。米国は空母を主力に海空の優勢を取りに行くのが基本戦術である。空母にまともにぶつかれば中国は秒殺だ。そこで、中国本土から対艦弾道ミサイルを、待ち伏せしている潜水艦などから巡航ミサイルも空母に向けて大量に打ち込む。1発かすりでもすれば、ハイテクの塊である戦闘機は離着艦できなくなるし、当たらなくても、米空母がミサイル迎撃に追われて第一列島線内に入るのに時間を要すれば艦艇勝負になり、勝負は五分に持ち込める。空母は数兆円、ミサイルは1発1億円。費用対効果に優れていて、国力に劣る中国に適した戦術だ。
米中衝突では自衛隊の関与が不可欠だとも指摘する。米国のシミュレーションでは、先制攻撃直後の紛争初期には米軍が分散退避する。米軍が立て直す間、海自潜水艦が第一列島線で中国艦艇を監視するとともに、イージス艦が弾道ミサイル防衛、護衛艦が空母の護衛に駆り出される。空自も対空ミサイル網を第一列島線上に作ることを求められる。言葉は悪いが、解放軍がミサイルを撃ち尽くすまでの標的か時間稼ぎの役。しかし、米軍の対中作戦は、自衛隊なしには成り立たないとのことだ。
ネットワーク化で、戦闘機が戦域全ての情報を共有する時代だが、自衛隊の戦闘機はいまだ進んでおらず、ネットワーク戦を前提とする現代の航空戦に対応できない可能性がある。著者は、予算を陸から海空にシフトすることを提案している。軍事戦略の本は軍事アナリストや元軍人が書くことが多く、そうした本の多くは兵器スペックなどマニアックな点にこだわっていて非常にわかりにくい。だが、本書はジャーナリストとして、情報を一度咀嚼した上で読者に提示し、しっかりした主張もある。今後の米中の戦略を考える上で、読む価値のある本だと思う。